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マツケンサンバ2からフィリーソウル

同居人ちゃんinアメリカから教えてもらって、マツケンサンバ2をはじめてインタネ上で観た。これっておもしろいか? ただの場末のギンギラショーじゃん。曲も、ありがちなラテン歌謡レビュー調で、こういうのって昔からあるし‥。「アイドル・オン・ステージ」でジャニーズの二軍タレントがよくこういう曲歌ってたぞ。で、同居人ちゃんinアメリカがおしえてくれたのですが、このマツケンサンバ2のアレンジがフィラデルフィア・ソウル(以下、フィリーソウル)っぽいという感想を述べたヒトがいたらしい。

うーーーん‥てゆうか、フィリーソウル自体ラテン歌謡に影響を受けているので、そういう間接的な相似にすぎないような。だいたい、フィリーダンサーの必須要素であるビートに欠けるし‥とかブツブツ言っているうちに、自然に「フィリーソウル・ダイジェスト・メドレー」を編集しているオレ。こういうことするの好きなんだよねぇ。

で、期間限定で「フィリーダンサーの華麗な世界」をテーマにしたサウンドファイルを以下に公開したいと思います。そのまえに、「フィリーソウル」とはなにか? おせっかいながらこれをまず解説したいと思います。

【60年代のソウル】
黒人音楽というのは今も昔も「芸能界」的分業生産システムをとっておりまして、つまり、レコードレーベルには専属または専属に近いようなソングライター、プロデューサー、はたまた演奏を担当する専属バンド(「ハウスバンド」という)がおりまして、シンガーはそれに歌を乗せるというスタイルなんですね。たとえば、60年代のソウルミュージックは、北のモータウン(デトロイト。いわゆるノーザン・ソウル)、南のスタックス(メンフィス。いわゆるサザン・ソウル)という強力なレーベルが引っ張っていたわけですが、いずれもレーベル付きのハウスバンドがあり(モータウンファンク・ブラザーズ、スタックスのブッカーT&MGズ)、ソングライターがいて、プロデューサーがいて、そのうえにA&Rマンが発掘した有能なシンガーたちが歌をつけることによってレコードができあがってたわけであります。

【ニューソウル】
その流れをうちやぶったのが、70年代初頭〜前半に一世を風靡した「ニューソウル」です。これは、ポスト・ベトナム戦争の風潮をモロに反映したムーブメントで、「操り人形」だったシンガーが、ソングライティングからプロデュースまで主導権を握り、歌詞もそれまでの当たりさわりのない男女関係の内容から、社会派の内容や内面を見つめるような内容にシフトし、音楽もブルース的な3コードから、ジャズやポピュラー、ラテン、場合によってはクラシックをとりいれた複雑なものに変化します。この革命的「ニューソウル」の四天王が、マーヴィン・ゲイスティーヴィー・ワンダーカーティス・メイフィールド、ドニー・ハザウェイ(またはアイザック・ヘイズ)であり、音楽史上に残る重要な作品をいくつも産まれました。

【フィリーソウル】
しかし、「ニューソウル」は、まごうことなき天才だった四天王たちの後継者が育たず、意外に短命に終わってしまいます。そこで台頭してきたのがフィラデルフィア・ソウルこと「フィリー・ソウル」です。

フィリー・ソウルは、システムとしては、かつての60年代の芸能界的分業システムの復古をもたらしました。フィリーソウルの中心的レーベル「フィラデルフィア・インタナショナル」の多くの曲はギャンブル&ハフなどを中心としてプロデュース・作曲がおこなわれ、演奏はMFSBというハウスバンドが担当し、そのうえに歌手(ソロよりボーカルグループが多かった)が歌をのせるというスタイルでした。

しかし音楽的にはフィリーソウルは、まさに「ポスト・ニューソウル」でした。曲としてはよりポピュラー/ジャズ色が強まり、ニューソウルの時代から多用される傾向にあったストリングズがこれでもかとバックのサウンドを華麗に塗りこめていきます。ギャンブル&ハフは歌詞にも積極的に社会性をとりこみ、この意味でも「ポスト・ニューソウル」と言うにふさわしいものでした。

サルソウル
フィリーソウルのもうひとつの特徴は、ラテン、特にラテン・ジャズからの影響です。それは、パーカッションの大々的な導入にも現れています。その「ラテンの影響」は、いわゆる「サルソウル」の音楽にも顕著です。「サルソウル」は、ジャンル名ではなく、フィリーソウルに大きく関わったMFSBのメンバーの一部が中心となって確立したレコードレーベル(ニューヨークが基盤)の名前で、「サルサ+ソウル=サルソウル」ということでネーミングされたことからもわかるように、フィリーの流れを組みつつも、「よりダンサブルに」ということを目標にしたレーベルでした。

その後、70年代後半のディスコの繁栄と衰退の影でサルソウルは、フィリー色を失ない、地下に潜行し、ゲイクラブを中心とするアンダグラウンド・クラブ文化の中でひっそりと支持され、それが結局、のちのハウス、特にニューヨーク・ガラージ・ハウスの源流となります。NYハウスの有名DJの多くがヒスパニックなのは、プエルト・リコが近いという地勢もさることながら、「サルサ+ソウル=サルソウル」の精神が受けつがれた結果と考えることができるでしょう。

【企画音源】
さて、以下に、フィリー・ソウルのダンスナンバー(いわゆる「フィリーダンサー」)の、特に、派手な曲を選んでメドレーにした音源を公開します(一週間で削除します)。フィリーだけではつまらないので、サルソウル、そして、NYハウスの流れを網羅する内容にしてみました。非常にテキトーに編集したので、かなりめちゃめちゃな出来ですが、笑って許してください。こうして派手目なところを集中して聴くと、やっぱマツケンサンバに似た雰囲気があるかも‥と思いなおしたり。でも、フィリー〜サルソウルの肝は、華麗なストリングズアレンジだけでなく、そのビート(MFSBの天才ドラマー、アール・ヤングが発展させた4つ打ちキック&裏打ちハイハットのビート)にもあったわけで、そのあたりを注目していただけたらと思います。

下に曲解説を置きますので、興味をもたれましたら是非オリジナル音源をCDで探してゲットしてほしいと思います。繰り返しになりますが、本当にテキトーな編集です。ファイル容量を小さくするために音もかなり圧縮してます。ごめんなさい。ではでは、エンジョイ・プレイ!

Philly Dancer::Salsoul::Garage House



1. Love Committee "Law and Order" (1978)
「華美絢爛なフィリーソウル」ということで、トップバッターは、フィリー末期・サルソウル初期に登場したこの4人組ボーカルグループの曲を。かなり濃い世界です。フィリーが死滅しそうなときに登場しただけにマイナーなグループだけれど、ファルセット・ボーカルに、後にテンプテーションズに加入するロン・タイスンがいたということで、ソウルファンの間では有名。

2. Double Exposure "Ten Percent (William Gibbons Mix)" (1976)
これもフィリー末期、サルソウル最初期に登場した4人組ボーカルグループの曲。とはいえ、今回はボーカルに入るまえのイントロだけを収録。とにかく、この曲の、特にこのミックス(9分近くあるエクステンデッドバージョン)は本当に、マジで、真剣に最高の一言。天才ドラマー、アール・ヤングのプロト・ハウスビートも冴えます。皆にもっとアール・ヤングのすごさを知ってほしいす。

3. The Ritchie Family "Brazil"
3人組女性ボーカルグループであるリッチー・ファミリーは、イタリア系のプロデューサーによって世に出たディスコグループで、初期はフィリーの流れを感じさせる、いわゆる「フィリーディスコ」でした。これをフィリーソウルに分類する人は皆無だと思いますが、バックにはフィリー〜サルソウルのMFSBの面子も多く参加しており、この半インスト曲、「ブラジル」も、サウンドだけは実にフィリーっぽい。ドラムはたぶんアール・ヤング。

4. MFSB "TSOP (The Sound of Philadelphia)" (a.k.a. "Soul Train Theme") (1974)
フィリーソウルの代表レーベルである「フィラデルフィア・インタナショナル」。そのハウスバンドだったのがこのMFSB。華麗で力強いサウンドを一手に引きうけた名グループです。ボーカルのない、MFSBだけのアルバムも多数出しており、特に、ソウル・ディスコ番組「ソウル・トレイン」のテーマ曲となった当曲は聴いたことのある人も多いと思います。正式タイトルである「TSOP」は「ザ・サウンド・オブ・フィラデルフィア」の頭文字で、フィラデルフィア・ソウルの誇りを体現したものです。ちなみに「MFSB」は「Mother, Father, Sister, Brother」の頭文字で、華麗なサウンドの裏では、家族愛や社会問題などを多く歌詞にとりいれた「フィラデルフィア・インタナショナル」の創始者ギャンブル&ハフの哲学を現わしています。

5. Archie Bell & The Drells "I Could Dance All Night"
ファンキーソウルのヒット曲「タイトゥン・アップ」でもっとも知られるアーチー&ザ・ドレルズは、もともとテキサスのグループでありましたが、70年代後半にはフィリーへと活動の場所を移します。この曲もフィリー・サウンド。

6. Double Exposure "Every Man" (1976)
再びダブル・エクスポウジャー。今回は歌の部分を中心に引用。このグループは、サルソウルレーベルからデビューしたのですが、サルソウルというよりはほとんど完全にフィリーと言ってよいかと。しかしサウンドミックス的には、バックのサウンド、特にドラムが前面に出たミックスとなっていて、はっきりと「ダンスフロア志向」である点で「サルソウル」らしいと言えるかもしれません。ドラムはたぶんアール・ヤング。


7. The Intruders "Win, Place, or Show (She's a Winner)"
イントゥルーダーズは、歌唱力に長けたグループというわけではなかったので、フィリーの代表グループであるオージェイズやハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツのようなスターグループと比べるとちょっとマイナーですが、フィリーソウルの最初期からギャンブル&ハフのもとで活動を続ける生粋の老舗フィリー・グループであります。この曲は、イントゥルーダーズの持ちあじである、どこかノスタルジックなメロウさが良く出ています。

8. The O'Jays "I Love Music"
70年代のソウルシーンを代表するグループであり、80年代90年代も一線で活躍したオージェイズは、フィリーのボーカルグループとしてはめずらしい3人組。3人だとコーラスワークは限られるので、どちらかというとリードボーカルの力強いかけあいで聴かせたグループです。歌詞は社会派だったギャンブル&ハフのグループのなかでももっとも硬派だったことでも有名。この曲(ちょっと今回の引用は短かすぎた‥)は、かなりミニマルな構成の曲で、後のハウスのプロトタイプとなったと言える曲です。

9. MFSB "K-Jee" (1977)
ジョン・トラボルタの出世作「サタデー・ナイト・フィーバー」のサントラに収録されている曲です。フィリー末期、サルソウル初期は、ラテン・ディスコの影響も強くなり、イタリア系を中心に、プエルトリコ系もからめたラテンディスコ映画であった「サタデー・ナイト・フィーバー」のサントラも、ラテンフレーバーがかなり強い。しかし時代的に、まだディスコがエレクトロ化してないころだったので、フィリーの影響もまだ残っていて、その意味「サタデー・ナイト・フィーバー」は非常に興味深いサントラです。MFSBのこの曲も、MFSBらしさを残しつつかなりラテン色もあり、サルソウル〜ハウスの流れの源流の一つとなっています。この曲は90年代に、NYのデフ・ミックス・レーベルの富家哲によってリメイクされ、クラブ界で大ヒットしています。

10. Nuyorican Soul "Runaway (Remix)" (1997)
時代は一気に20年飛びます。NYハウス、いやハウス界全体を代表するベテランDJ/プロデューサーチーム、マスターズ・アット・ワーク(=ケニー・ドープ・ゴンザーレスとリトル・ルイ・ヴェガのコンビ)の変名プロジェクト、ニューヨリカン・ソウルは、「ニューヨークに住むプエルト・リカン=ニューヨリカン」としての誇りと伝統への敬意を体現したプロジェクト。サルソウルへの愛が満載。アルバム自体はラテンジャズ色が強かったが、この曲(サルソウル・レーベルのヒット曲、ロリータ・ハラウェイの同名曲のカバー)は、シングルで出たリミックスバージョンで、サウンドこそ現代っぽく、ベースとエレピ以外は打込みプログラミングだけど、全体的には思いっきり原点回帰というか、フィリー〜サルソウルの流れを踏襲したサウンドと演奏となっており、ハウスがいかにフィリーソウルから影響を受けたかがわかってもらえるかと思います。打込みドラムも、まるでアール・ヤングが叩いているかのようではないか! アルバムバージョンの200倍ほど良い名リミックス。

11. Unknown (Intro to Cathy Sledge's "Another Star") (??)
省略してしまったけれども、キャシー・スレッジの「Another Star」のハウス・バージョンもかなり出来のよいガラージ・ハウス。でも今回入れたのは、某ミックスCDに入っている同曲への導入部分。打ち込みですが、ラテン色の強いパーカッションから、ハウスビート、ラテンジャズの影響受けたキーボード・リフまで、サルソウルの流れを色濃く感じさせます。

12. Ultra Nate "Joy"
90年代前半を代表するガラージハウスの歌姫、アルトラ・ナテの初期の曲の一つ。四つ打ちキックのビートや、ゴスペルからの直接的影響を受けたボーカルなど、フィリー〜サルソウルの流れをあきらかに受けついでいる部分がある一方、華美さを排除し、サウンドの飾りを最小限に、そしてコードもワンコードと、ミニマリズムを徹底的に追求しているところに90年代ハウスの独自性を強く感じさせます。後半はボーカルにゴスペル色を残したままハードコアテクノになるのも面白い。プロデュースは当時マスターズ・アット・ワークにせまる勢いのあったベースメント・ボーイズ。

13. Mariah Carey "Honey (David Morales Mix)"
マライヤのシングル曲「Honey」のハウス・リミックス‥というか、ボーカルもすべて録音しなおしているのでリミックスというよりはセルフ・リメイクですな。オーソドックスで完成度の高い、ゴスペルの影響も感じさせるガラージ・ハウスになっています。プロデュースはマスターズ・アット・ワークと並ぶNYハウスの顔、デイヴィッド・モラレス(この人もヒスパニック)。コ・プロダクションにモラレスの同僚の富家哲。マライヤのボーカルも意外にもパンチが効いていてすばらしいの一言。ポップ歌手じゃなくてハウス・ディーヴァになったらよかったのに。

14. Play Paul "Spaced Out"
最後は、フレンチ・ハウスのダフト・パンクの片割れがDJをしたミックスCDからの曲。チープでエレクトロなインスト・ハウスなのだが、このうさんくさいチープさとオプティミシズムに、地下に潜行していたころのサルソウルと同じ匂いを感じるのはオレだけですか? MFSBの「K-Jee」や、ダン・ハートマンの「Re-light my Fire」に通じる匂い。でもこの企画の最後を締めくくる曲としてはちょっと意味不明すぎるかも、我ながら。

以上、おそまつでした。