たそがれ清兵衛 (2002) ★★★★★

director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次、朝間義隆

たそがれ清兵衛 [DVD] なんか、あんまり映画に★付けるのって慣れてない‥というか映画のことをよくわかってないので、自分でもどういう基準で付けてるんだかよくわからん。あと、映画って、観た直後の興奮と、しばらくして思い返したときの印象がけっこう離れていることが多くて困りますね。映画をたくさん観ている人ならそんなこともないんでしょうが。

で、この映画は良かったです。脚本、演出、キャスト、演技など、すべてにおいて高いクォリティーの、安心して観られる映画で、ああ、ほんと、こういうのが映画なんだなあとしみじみ感心してしまいます。オレ的には微妙に「大根」のカテゴリーに入る真田広之宮沢りえがここでは非常に良い。特に真田は素晴しく、宮仕えの悲哀と、剣士としての鋭さと、家族のささやかな幸せだけを望む父親としての視線、この三つが非常に自然に演じられています。

ところで、どこかに投稿されていた評で、この映画の感想として「現代日本人も良い意味での武士道精神と誇りを再考し、行きすぎた欧米化をみなおすべき云々」ということを書いているものがありましたが、この映画からどうやってそういう感想が出てくるのか、信じ難いですね。まあ、確かに、貧困にあえぎつつも、腐っても武家、清兵衛とその長女の礼儀正しい所作に美を感じるのは簡単であり、そういうミクロな意味では武士の美学というものを観ることができると言えるかもしれません。しかしですね、この映画のマクロな中心テーマははっきりいって、むしろ武士の生活様式にまつわる残酷さ、虚しさですよ。もちろん、積極的に武士道に対してアンチテーゼを投げかけているわけではありません。しかし、主人公の清兵衛自身、家族が幸せになれるなら武士だって喜んで辞めるとはっきり言っているし、また、清兵衛の仕事と生活が象徴するものは「武士道の美しさ」ではなく、「サラリーマンの悲哀」であるのは誰の目にもあきらか。清兵衛の、下級武士としての生活の不条理さに耐える姿に美しさはあるものの、全般的には「武士道の美」という言葉の欺瞞を掘りさげた映画であるはずです。

と、どうでもいいようなことをぐだぐだ書いてしまいましたが、とても良い映画ですので観てない方は是非観てください。上の文章だけ読むと辛気臭い話のようですが、実際はライト・コメディでもあるし、ちょっとジーンとするところもある映画です。