博士の異常な愛情 (1964) ★★★★★

Dr. Strangelove or How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb
director: Stanley Kubrick
screenwriter: Stanley Kubrick, Peter George, Terry Southern

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を・愛する・ようになったか [DVD] ようやく観ました、「キューブリック最初の傑作」、あるいはキャリア通しての最高傑作とも言われるこの作品。DVDを買いまして、この一週間で4回ぐらい観ました。観るたびにおもしろさが増し、感銘も増す恐るべき映画。

正直、最初観たときは、少々とまどいもありました。冷戦というあまりタイムリーじゃないテーマもそうですし、加えてですね、この映画はコメディなんですが、前半が非常にオーソドックスな戦争映画として淡々と進むのです。戦闘機のエンジン音、将校たちの流れるような軍人言葉など、単調とさえ言える展開。どこにもおもしろさを見出せず、不安になりました。

しかし中盤になって徐々におもしろくなっていくのです。

結論から言うと、この映画はなんといってもピーター・セラーズが最高で、セラーズのいない「Dr. Strangelove」はありえないと断言できるほどおもしろい。一人で三役をやっているのですが、まず最初に登場するのは、イギリス空軍から出向しているキャプテン・マンドレイク。静かに気が狂ったリッパー将軍に対してどういう態度をとったらいいかとまどう常識的な将校で、狂人をなだめるようにして慎重に、しかしどこか弱々しくイギリス英語をくりだすのがむしろかわいらしい感じ。次はアメリカ大統領役。この大統領は、毅然とした態度をとっているのに、アル中のソ連書記長と話すときだけは、まるで恐妻家が嫁さんに「あ、あの、今日は外で食べてくるから」と電話で伝えるかのように、妙に気をつかってキョドるのが笑える。そして映画も終盤になってようやく登場する真打ちストレンジラブ博士! これがもう最高! 竹中直人の「笑いながら怒る男」の原型がここにあります。ナチ出身のストレンジラブ博士、そのドイツ語なまりの英語、不審な挙動も最高で、おそらくほとんどがピーター・セラーズのアドリブだろうと思われる、理性的なようでいて「核爆弾」級の馬鹿馬鹿しさを秘めた発言の数々は、まちがいなくこの映画のハイライトです。最後の「Mein Fuhrer, I can walk!」は映画史上屈指のナンセンスな決め台詞ではないかと。超笑える。

しかし、クライマックスのストレンジラブ博士のおもしろさ、馬鹿馬鹿しさはもちろんキューブリックの映像センスの賜物でもあります。非常にシンプルなストーリーですが、細かいところまで金がふんだんにかかっていて、いやあ、金の使いかたがうまいなあ、と。ヘタしたらB級コメディになってしまいそうな題材を美しさと気品と馬鹿馬鹿しさを同時に備えた完璧な作品に仕立てしまうのが、キューブリックの天才性の恐しさです。

オープニングの優雅さ、エロティックさ、そしてエンディングのどこか甘い「終末」は、最高の映像作家による最高のアート作品であります。