男はつらいよ 純情篇(6作目) (1971) ★★★★

director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次宮崎晃
madonna: 若尾文子

男はつらいよ 純情篇〈シリーズ第6作〉 [DVD]男はつらいよ」第6作です。この第6作は決して名作ではないと思うんですよ。これといったドラマもイベントもなく、平坦。ふられ方もいつもとまったく同じ。また、この映画、最初から寅さんの背景を前提にしていて、寅さんシリーズを観てない人には入りこめないでしょう。

しかしねえ‥すでに寅さん映画を何本か観ている人間には、しょっぱなからじーんと来るんですよ。なんというか、感覚がすでに「寅さんセンシティブ」になっているんですね。ちょっとしたことでもぐっとなってしまう。たとえば、序盤で寅さんが柴又の「家」が回想としてフラッシュバックシーン、寅さん映画を始めて観る人には、何のことだか、という感じでしょうが、寅さん映画のキャラをよく知っている者にはあれだけでじーんとする。ちなみに、このフラッシュバックではさくらが寅さんにぎゅっと抱きついておりまして、いつもながらの寅さんのシスコンが炸裂です。

マドンナの若尾文子は、小説家の旦那との生活がうまくいかず、虎屋にころがりこんできた遠縁の人妻。あまり『下界』のことを知らず、珍獣をかわいがるように寅さんと親しくするおしとやかな日本美人‥という寅さんマドンナのステレオタイプを踏襲していて新鮮味はなし。

この映画の白眉はむしろ、サブプロットの宮本信子(わ、若い!)と森繁久彌(ヒゲがない!)の親娘ですね。最初と最後にしか出てきませんが、二人とも素晴しい演技で、特にラストでの森繁の言葉少ない演技には思わず涙ボロボロ。この映画は、映画最後のいつもの「寅さんの旅立ち」がいつもより二割増しに泣けるんですが、ああこれで泣けるシーンは終わりかと安心したところに森繁にふいうちされるんですから、闇討のようなもんですね。やられますた。