男はつらいよ 奮闘篇 (7作目) (1971) ★★★★


director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次、朝間義隆
madonna: 榊原るみ

いかん、もう病気かもしれん。「男はつらいよ」シリーズ、何観ても名作な気がする。

今回のマドンナ、花子を演じるのは榊原るみ帰ってきたウルトラマン・シリーズにも出ていたというこのヒトは、目がくりっとしたアイドル顔の娘で、萌え度は今までで最高。

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でも、今回のポイントはそこじゃない。これまで寅さんのマドンナといえば、美人タイプでも庶民派タイプでも「おねえさま」タイプと決まっていて、寅さんは仮病をつかったりしてマドンナに甘えようとするのがいつものパターンだった。ところが今回のマドンナ、花子は違う。花子はなんと知恵遅れ。青森から集団就職で東京に出てきたものの順応できなくてふらふらしていたところを偶然寅さんと知り合いになる。いかにも頼りなくあぶなっかしい花子に、寅さんは心配で心配でしょうがない。ついついいろいろ面倒を見ているうちに情が移ってしまって‥。しかも花子も寅さんになついているからさあ大変。結婚まで考えはじめた寅さんに、妹のさくらやおいちゃんおばちゃん夫婦は、喜んで良いのかどうなのか、困ってしまう‥。

と、ここまであらすじを読んでもらえればわかるように、実に難しいストーリーです。寅さんシリーズはこのあと40作も続くんですから、当然ここで縁結びが成就するわけもないのですが、いつもの、寅さんだけが一方的かつ勝手に熱を上げてふられるパターンとは違うので、ちょっと勝手が違う。いつもは泣けるけど、今回は涙流してすっきりというわけにはいかない。苦いね。うん、苦いよ。人生ってうまくいかないね。

この映画の影の功労者は倍賞千恵子のさくらですね。この難しい題材のなか、困った顔をさせれば世界一のさくら=倍賞千恵子が、おろおろする観客の気持ちを代表して走りまわってくれます。走りまわったから何が解決するわけでもない。でもどうなるかわからなくても走りまわらなきゃいけないときもあるんですよ。

映画の最後、十数分。寅さんを探して津軽をあてもなくまわるさくら。その間、カメラは寡黙に、淡々と津軽の生活の景色と人々の姿を映し出します。その寡黙さが人生の真実について雄弁に語っているのです。解決もなければハッピーエンドもない。それが人生なんだと。今回の山田洋次はドキュメンタリー・タッチで映画を始めるのですが、最後もドキュメンタリーに戻ってくる。これは映画の難しいテーマの解決をリアルな生活の中に投げだしたという「逃げ」であると解釈することも不可能ではないと思いもするのですが、その手法に強引さはあれ、あざとさが微塵もないのは、やはり映画作家としての山田洋次の卓越した表現力の現れであり、倍賞千恵子、そして渥美清の役者としての重みの証明ではなかろうかと、オレはそう考えます。

以上です。

f:id:ultravisitor:20050512075627:image 若い! 倍賞千恵子の「さくら」