男はつらいよ 柴又慕情(第9作) (1972) ★★★★

director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次、朝間義隆
madonna: 吉永小百合

あらすじ:
旅先の金沢で若いOL三人組と意気投合した寅。その後、そのうち二人に柴又でばったり再開。喜ぶ二人は、残りの一人、歌子(吉永小百合)も寅との再会を心待ちにしているという。歌子がいつも寅にまた会いたいと言っているという話を聞くにつけ段々その気になってくる寅。次の日、その歌子が訪ねてきて…。

リビュー:
とにかく森川信の「おいちゃん」がいなくなって寂しい。この映画で二代目おいちゃん、松村達雄が最初に登場するシーンでは、森川信の不在にやっぱり目頭が熱くなりました。あれだけ存在感のあった森川信のあとということで松村達雄も難しかったと思うよ。うん。ということで今作のおいちゃんはひかえめ。

さて、この映画のマドンナは、でました、超大スター、吉永小百合。やっぱりすごいスターパワーというか、庶民的でありながら華やかさを決して失わないというか…要するにかわゆし。

寅も、今回はいつもの150%ぐらいののぼせっぷり。いくらなんでも歳もつりあわないしという意識があって、吉永と寅の再開シーンでは、寅はとりあえず「まあ、そこにかけなさい」とか、年長者の威厳を示そうとするが、あとはメタメタ。その落着きのなさといったら…たいへんなことになってます。下は、吉永と再開できた寅、緊張のあまり、商売につかう草だんごの生地を無意識にこねてしまう寅。

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ストーリー的にはいつもとまったく同じ。この寅さんシリーズってのは、ストーリーが同じだけに演出がすべてなわけで、そこが難しい。観客は展開を読んでいるわけだから、逆に非常に高度な演出力が要求されるわけです。その点この映画はすばらしい。吉永の存在感もあいまって、寅さんシリーズのなかでもかなり平凡なストーリーが説得力をもって観る者にせまってきます。

オレは、映画としては「続」「望郷篇」「奮闘篇」あたりのほうが優れていると思うけど、この映画も水準を超えています。ちなみに、父親との関係を語るクソマジメな博の台詞も、今までの寅さんシリーズを観る者には深みのあるものとしてせまってきますね。