八つ墓村 (1977) ★★★★

八つ墓村 [DVD]


director: 野村芳太郎
screenwriter: 橋本忍

あらすじ:
新聞の訪ね人広告で自分の名前を見た辰弥(萩原健一)は、弁護士の立合いの元、老人と接見するが、訪ね人を探し当てることができて感無量の体であったその老人は一言もしゃべらないうちに辰弥の眼前で突然変死してしまう。老人が辰弥の生誕地の岡山の山深い村から来ていることを知った辰弥は、それまで謎だった自分の出生の秘密、そして記憶にない父親のひととなりを知りたいという思いからその村へと向かう。その村は、戦国時代に村と共生していた八人の落武者を村人が裏切って謀殺して政府に指し出したことから「八つ墓村」と呼ばれたこともあった。そして、落ち武者謀殺の褒賞として財を築いた旧家の末裔こそが辰弥の生まれた家であった…。

リビュー:
横溝映画ブームのころ、同じ年の「獄門島」のわずか2ヶ月後に封切りされたのがこの「八つ墓村」。当時は「たたりじゃあ〜っ」という台詞ばかりが有名になりましたが、こうして観てみると、これまでの市川昆の横溝シリーズとはかなり違う。市川ものが陰湿な田舎の旧家を描いているにもかかわらず、映画としてはモダンというか、テンポよくエンタテイメントに徹しているのに対し、こちらは野村芳太郎(「砂の器」「震える舌」)ですから、とにかく重厚。芥川也寸志のフルオーケストラのドラマチックな音楽と合わせ、より芸術志向という感じです。さすがに画は美しく、特に、山村の風景と芥川のくどいまでの音楽のとりあわせは印象的で、何も起こってなくてもなにやらぐいぐいと引きつけられるところがあります。

一方、猟奇という点ではちょっと生真面目に頑張りすぎたかなという印象も。落武者謀殺のシーンでのスプラッタ描写は、当時としてはかなりショッキングだったかもしれませんが、今みるとショボい。いや、古い映画の特殊効果がショボいのはあたりまえだし全然かまわないんだけど、ショックシーンが特殊メイクなど、技術への依存度が高く、あまり雰囲気や演出に気が使われていないので、観ていてあまり気分が出ない。それから、人が死ぬときの演出、特に悶絶のしかたが大袈裟で、どうも観ていて笑ってしまう。このあたり、真面目な野村監督が頑張ってホラーをやろうとしたんだろうなあと思うと、おどろおどろしい気持ちよりもほほえましい気持ちになってしまいます。

それでも、チープになるということがまったくないのが野村芳太郎の力量でありましょう。芥川の重厚な音楽が使われるシーンと、無音楽になるシーンの対比が見事であるし、緊迫感がある。同時に優雅でさえある。萩原健一の寡黙な演技も効果的だったし、渥美清の金田一耕助という斬新な配役も新鮮。いつもはどうやって事件を解決しているのかさっぱりわからない金田一も、今回はなんとなく説得力があった気が。横溝映画ではコミックリリーフになりがちな警察もこの映画ではシリアスで迫力があった(もちろん事件解決につながらないけど)。

最後に、ちょっと冗長なところが残念やったね。無駄なシーンも画と音楽の美しさで観られるんだけど、「もうええから次に進んでよ」と頭をかすめることも二度三度。編集が今いちなのかも。冗長なわりに説明不足なところも散見されるし。

とはいえ、横溝映画の最高傑作「犬神家」に肉薄する好作品なのは確かでしょう。うぶめの夏も全盛期の野村芳太郎がやったらよかったろうにね、と、かなりトンデモなエンディングを観ながら思いますた。