大学による高校生の青田買い

青田買い反対? : 大学プロデューサーズ・ノート」に、先日触れた企業の大学生青田買いに関するニュースが取り上げられていまして(注:当サイトが取り上げられたわけではない)、その中で、「大学もAO入試で高校生の青田買いをしているじゃないか、という批判もある」ことが取り上げられていました。その後に、「大学プロデューサーズ・ノート」さんは、大学の企業に対する青田買い批判と高校の大学に対する青田買い批判は似ているようで異なるということが指摘されています。

どこが異なるのか、「大学プロデューサーズ・ノート」さんの書き方だと解りにくいと思われる方もいるかもしれないので改めて書きますと(といっても「大学プロデューサーズ・ノート」さんのところの読者は関係者がほとんどだろうから解らないわけはないかもしれませんが)、大学の企業に対する青田買い批判は「就職活動が3、4年次の学業を阻害している」というのがポイントであるのに対して、高校の大学に対する青田買い批判は「早く進路が決まると残りの期間を生徒が遊んでしまって困る」というものです。つまり、大学の方は、内定が早く決まること自体よりも、そこにいたるプロセスで学生が授業に来れなくなったりして困ると言うのですが、高校は、内定が早く決まること自体が困るというのです。

この問題は、別にAOに限ったことでなく、推薦入試についても同様で、要するに進路が決まった高校3年生が勉強を真面目にしなくなると、受験を控えた他の生徒に悪い影響を与えかねないということがあります。そこで、最近は高校が大学に「推薦やAOで進学が決まった生徒に、入学前教育をしてくれ」と要望を出すケースが増えています。

こういうことを聞くと、暴言を承知で書きますと、オレなんかは「そんなん、高校の教育カリキュラムの問題だろうが!」と思ってしまいます。だって、進路が決まったと言ってもまだ入学してないんですよ、大学に。つまり学費も払ってないわけです。学費を払ってない高校生になんで大学が無料で教育しなきゃいかんの? 人件費はどこからまかなわれるの? もしかしたら我々が無償ボランティアするの? な〜んて思ってしまうわけですね。

ところが、大学上層部は、こういうリクエストに応えようとするんです。実際、学生集めに必死な中堅大学の多くは、「入学前教育」を検討しています。こういうサービスをすることによって高校との関係を良くして、良い生徒をもっと推薦してほしいという算段です。

ぼくは「ペーパー入試なんて廃止して全部推薦にすりゃいい」と思っている人間なので、推薦を増やすこと自体は構わないんですが、こういう無料サービスで釣るのは間違っているでしょう。高校生は高校に所属しているんだから高校が教育すべきです。それを大学が肩代わりすればそりゃ歓心を買うでしょうが、それじゃ教育の構造というものが破壊されてしまいます。実質を取るという方向としては間違っていませんが、理にかなってません。実を取って理がぐだぐだになるのは日本人の悪いクセです。

もう一つ、こういう「推薦やAOで早期に進路が決まった生徒への入学前教育」で気になるのは、対象となる生徒の学習に対する「インセンティブ」という問題がおざなりになっているということです。高校生のためにとにかく何か週一でも授業を開講すればいいだろうとか、そういう適当な議論がなされたりしているのが現状だと思いますが、そんな適当な、目標設定がよくわからない授業を開講したって生徒さんが真面目に受講するとは思えません。高校の授業なら、手を抜いてもめったに落ちないとはいえ、万が一落としたら面倒なことになります。でも、「入学前教育」は大学の授業でもないし高校の授業でもない。落としたって何も起こらない。「進路が早く決まると遊んでしまうので困る」という生徒が、「入学前教育」に意欲的に取り組むと思えないんだけど…。何のためにこれを学ぶのかという動機付けの部分をおざなりにして、「とりあえず何か与えておけば勉強してくれるだろう」と安易に考えるのは日本の教育者の悪いクセです。

推薦やAOで進路の決まった生徒の学習態度の責任を大学に求めようとする高校、それにサービスで応えようとする大学。どちらの言い分も良くわかるんですけどね。でもやっぱりこういうことはきちんと筋を通しましょうよ、と思います。大学が企業に対して、「内定が決まった学生が勉強しなくなって困る、入社前研修をやってくれ」と言ったらやっぱりおかしいでしょ?

とはいえ、大学と違って、簡単に単位を落としたりできない高校の悩みも現実問題として大きいんだと思います。これを、「大学がサービスを提供する」以外の方法で解決するにはどうしたらいいか。さあ、いつものお馴染みの結論に行きますよ。用意はいいですか? 大学別のペーパー入試をやめて全員推薦にすればいいんです。高校3年生が全員秋ごろに進路が決まれば、残りの期間で高校がどういう教育カリキュラムを組むか、色んな可能性があると思います。推薦やAOの「青田買い」が問題になるのは、ペーパー入試が控えている生徒とのバランスがとれないのが問題なわけですからね。全員推薦・AOにしてしまえば無問題なわけです。

以上。

(追記2008/7/12:ぼくが言う「ペーパー入試廃止」は「大学個別のペーパー入試」という意味であって,推薦でもAOでも全国統一的なペーパー試験の受験(アメリカのSATに当たるもの)は必要だと考えています)