復讐するは我にあり (1979) ★★★★★

今村昌平監督。ハー大のフィルム・アーカイヴで上映されたのを観てきた。サイコパス映画の古典と言って良いかもしれない。初見なんだけど。前半は性欲と暴力欲求が異常に強い性格破綻者(緒方拳)の物語という感じだが、キリスト教というサブテキストがあらわになるにつれて深みが増し、さらに「浅野荘」の女将、ハル(小野真由美)とその母(清川虹子)との思いがけない「交流」が描かれるにつれて、このサイコパスにも赤い血が流れていることが明らかになる。そして緒方と小野の「恋のようなもの」の頂点で描かれるもっとも平和で美しくささやかな瞬間が訪れると、緒方はその美しさに恐れおののくようにそれを破壊してしまう…このシークエンスには鳥肌が立った。面会に来た父親の「おまえに俺は殺せない、おまえは罪のない人を殺すしかできないんだ」という台詞、そして、新約聖書の「復讐するは我にあり」(=復讐する権利があるのは我=神のみだ)というタイトル、人を食ったようなエンディングなど。ありとあらゆるところにサブテキストが隠れている。多すぎるセックスシーンとショッキングな殺人シーンと人を喰ったような演出にともすれば目をくらまされてしまうが、実は複雑な哲学的な問いかけが隠されている映画。