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性差の非対称性が生むロバート・パーマーの「I Didn't Mean To Turn You On」のおもしろさ

CD研磨してもらって超ひさびさに聴けるようになったCDの一つに80年代ロバート・パーマーの,Power Stationの成功を受けて大ヒットしたアルバム「Riptide」がありまして,80年代を通過した人なら誰でも知っている「Addicted To Love」も入っているわけですが,ぼくがもっとも好きなのは,第二弾ヒットとなっあた「I Didn't Mean To Turn You On」。久々に聴いてみて,この曲は良い曲なだけじゃなくて,「おもしろい」曲だなと再認識しました。

この曲はカバーで,元曲は初期ジャム&ルイスが手がけたシェレールの84年の曲です。当時のジャム&ルイスはシンセの使い方やビートにプリンスの影響がまだかなり強いものの,内省的に進んでいったプリンスと違い,ひたすらダンスフロアでの高揚のみを追求した潔さとシンプルさが素晴らしい。そして何より歌詞がいい。曲名は「あなたをその気にさせるつもりはなかった」という意味ですが,「turn on」にはセクシャルなニュアンスが強いので,けっこう挑発的なタイトルだと言えるでしょう。歌詞の方もふるってます。

あなたを家に送ったら/さよならだけじゃ嫌とあなたは言った/ごめんね/あなたをその気にさせるつもりはなかった/そういうつもりはなかったのよ

二度も言ったじゃない/私はただ親切心でふるまっただけ/ただの親切心よ/あなたをその気にさせるつもりはなかったの

ねえどうしてわたしが/後ろめたい気持ちにならなきゃいけないの/あなたの誘いにのらなかったからってさ/あなたをその気にさせるつもりはなかった/もとからそんなつもりはなかったのよ

この歌詞を読んで皆さんはどう思われるでしょうか。「ヤな女!」と思う人もいるでしょう。あるいは「ちょっと親切にしたらすぐ勘違い男っているよなあ」と思うかもしれません。逆に「天然でおもわせぶりな女っているよなあ」と思う人もいるでしょう。いずれにしても,なかなかクレバーな歌詞だと思いますね。ダンスフロア向けの曲としては挑発的かつセクシーで良いです。

で,この曲をわずか2年後にロバート・パーマーがカバーしてヒットさせたわけですが,当然ですが,ロバート・パーマーは男です。すると同じ歌詞でも印象はちょっと変わってくる。

君を家に送ったら/さよならだけじゃ嫌と君は言った/ごめん/君をその気にさせるつもりはなかった/そういうつもりはなかったんだ

二度も言ったじゃないか/ぼくはただ親切心でふるまっただけ/ただの親切心だよ/君をその気にさせるつもりはなかったんだ

ねえどうしてぼくが/後ろめたい気持ちにならなきゃいけないんだい/君の誘いにのらなかったからってさ/君をその気にさせるつもりはなかった/もとからそんなつもりはなかったんだよ

「うわっ,イヤな男!」…多くの人は単純にこう思うんじゃないでしょうか。しかもロバート・パーマーは男前のナイス・ミドルですから,「ちっ,モテると思っていい気になりやがって」という感じです。女性アーティストの場合,ちょっと「性悪」な演出をするというのはエンタテイメント的にはプラスに働くことが多いと思うのですが,男性の場合,「性悪」は文字通りの「性悪」にとどまってしまう。そのあたりの性差がおもしろい。

そしてロバート・パーマーはそれを分かっててあえてカバーしたと思えてなりません。だからこのロバート・パーマー・バージョンはなんだか笑えるというか,シニカルなユーモアを感じるんですね。

ちなみに,当時のロバート・パーマーをプロデュースしたシックのバーナード・エドワーズのアレンジも冴えまくっていて,オリジナルのジャム&ルイス版とは違った冷たいファンクネスを感じさせる仕上がりになっています。オリジナルとまったく同等に張り合える数少ないカバー曲の一つだと言えるでしょう。

上記二曲のPVは以下で視聴できます。

Cherrelleバージョン:http://www.youtube.com/watch?v=B8luxaT0JRs

シェレールのこのPVはコミカルな内容になっているのがちょっと痛しかゆしですが,チープながら良くできていると思います。シェレールの動いているのを初めてみましたが,かわいいですね。

Robert Palmerバージョン:http://www.youtube.com/watch?v=9P2hoO088lc

こちらのロバート・パーマーのPVは,「Addicted To Love」のあからさまな二番煎じ(これも「分かってて同じことまたやるぜ!」感が一杯)ですが,その二番煎じ感に目をつぶればとにかく最高! ロバート・パーマーの「カッコいいけどうさんくさい」雰囲気が素晴らしい。

パーマーはすでに故人なのが悲しい…。合掌。