アウトロー [The Outlaw Josey Wales] (1976) ★★★★★

クリント・イーストウッド監督・主演。

本格的なリビジョニスト・ウェスタンの初期の代表作として観た。いろいろな意味で面白い作品だった。すでにウェスタンが映画としては時代遅れになっている時代にウェスタンを製作することの意味、そして、いわゆる古典ウェスタンから一段も二段も下だと思われていたマカロニ・ウェスタン出身のクリント・イーストウッドが監督して主演する意味。イーストウッドはこれらを十分すぎるほど考えて製作したことがうかがえる作品となっている。

なんかね、もう、すべてが「逆」なのね、古き良き古典ウェスタンの。詳しく書くとおもしろくないので書かないけど、とにかくやりすぎちゃうかと思うぐらい、古典ウェスタンの逆を行っている。

あと面白いと思ったのは、ジョン・フォードジョン・ウェインの「探索者」との類似と相違。何年もかけて家族を殺された復讐を成し遂げようと執念深く旅をする主人公のジョージー・ウェールズは、「探索者」の主人公、イーサンをはっきり思い起こさせるけど、でも枠だけが同じで中身が違うんだよねえ。ジョン・ウェイン演じるイーサンが追っていたのはコマンチのリーダーだった。ジョージーが追っているのは白人。追ってる対象がいわば逆。イーサンの旅のお供はインディアンの血の入った白人の若造だったけれども、ジョージーのお供は白人文化に同化したインディアンの老人。イーサンは徹底してインディアンを憎み、また女性差別的、そして心に底知れぬ闇をもっていて人間的にとっつきにくい男だった。それに対しジョージーは一匹狼で復讐の鬼なのはイーサンと同じだけど、インディアンとはガンガン仲良くなるし、女性に優しいし、とっつきにくいようでいて、人に好かれやすい好人物。

そうそう、「探索者」はヒーローに心に闇を持った人間を置いたと言う点で「リビジョニスト・ウェスタンの始祖」と言われている映画なんだけど、「本格リビジョニスト・ウェスタンの初期の代表作」と言われる「アウトロー」は、主人公に好漢を置いている点で逆に古典ウェスタンに近いとも言えて、そのあたりのねじれの構造がとても面白い。

おっと、なんか長くなってきたな。で、この映画でオレが意外だと思ったのは、復讐譚なのに、妙にユーモラスで呑気な時間が流れていること。出だしを観る限りではヘビーな話になりそうだなあと言う感じだし、イーストウッドが数年前に撮った「荒野のストレンジャー」がひたすらダークな復讐譚だったことを考えると今回もダークかと思いきや、旅のお供であるインディアンの老人との禅問答のような会話も手伝って(ジャームッシュの「デッド・マン」(1995)はここからかなりの影響を受けているかも?)、どこか達観したようなロードムービーになっている。

その「空気」をさらに印象深いものにしているのが美しい画。この映画が描き出すアメリカ中西部の自然の様々な姿は本当に美しいの一言。76年の映画だけど、古さをまったく感じさせない瑞々しく鮮やかな映像。これだけでも観る価値あり。

セルジオ・レオーネゆずりの要所要所での決闘シーンの緊迫感、かっこよさもさすが。ただ、打ち合いにいたるシーンの緊迫感は良いんだけど肝心の打ち合いがもう一つ切れ味が良くないのがこの映画の唯一の不満。

それ以外は文句なし。イーストウッドの監督としてのカラーもここで完全に確立されている。正直、イーストウッドの髪がまだあることを除けば、2006年の新作だと言っても違和感ないような完成されたいぶし銀の作品。