セロニアス・モンク ストレート・ノー・チェイサー (1988) ★★★★

60年代後半の、いつものクァルテットではなく、オクテット編成でのヨーロッパツアーの映像を中心としたジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンクの伝記ドキュメンタリー。エグゼクティブ・プロデューサーはクリント・イーストウッド

セロニアス・モンクはおそらくジャズ界きっての異能で、その異能さゆえ初期のころは「あいつはヘタだ」という誤ったレッテルさえ貼られていたほどだが、予想どおりというか、このドキュメンタリーを見るとやっぱりオフステージの本人も変。いつもくるくる回転しているし、ろれつは回ってないし。

そんな彼が大所帯グループのリーダーとして、外国をツアーするわけだから、そりゃ大変である。ここでのモンクは明らかにナーバスになっているし、リハーサルでの、おそらく相棒のチャーリー・ラウズ(t.sax)しか理解できないだろうモンクの支離滅裂な指示に他のメンバーはとまどっている。それでもツアーが進むにしたがってじわじわとマジックが生まれていく様子がスリリング。

モンクの演奏は、映像によって強化されるものだと思う。「いったいどういう発想であんなプレイをするのだろう?」という疑問が、映像でのモンクの動きを見ているとなんだか納得できてしまう。いや、納得できるような気がするだけで、モンクのプレイが予測不可能なのはやはり同じだが。次はどのキーを叩くのか? 一瞬一瞬に目が離せない。

最後の葬儀のシーンには目頭が熱くなった。これはモンクに感情移入していたがゆえの気持ちではなく、一つの突出した才能の死を悲しく思う気持ち、人類が失ったものに対する哀惜の念だ。