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「青山学院大:学生らにアイフォーン3G配布…代返難しく」やて!

江草さんのとこでも取り上げられていた以下のニュースにからめて思うこと。

青山学院大:学生らにアイフォーン3G配布…代返難しく

 青山学院大は14日、昨春開設した社会情報学部(神奈川県相模原市)の全学生と教職員計約550人に、米アップル社製の携帯端末「iPhone(アイフォーン)3G」を配布すると発表した。利用方法のうち、学生にとって脅威になるのがGPS(全地球測位システム)機能が付いたアイフォーンを使った出欠確認。学生の送信場所を大学側が把握できるため、本当に教室にいるかどうかが即座に判明。友人に返事してもらったり、出席カードに記入してもらったりする「代返」ができなくなる。
 アイフォーンを販売しているソフトバンクモバイルと同大学が同日、「モバイル・ネット社会の教育・研究」に関する基本協定を締結。15日以降、在籍する1、2年の学生約530人にアイフォーンを無償で配布し、今秋以降本格的に運用を始める。同社によるとアイフォーンを大学で一斉に利用するのは初めて。基本料金は大学側が支払うため、授業で利用する分には学生の負担はない。
(中略)
 友人にアイフォーンを預けてしまえば、出欠確認の「代返」は可能。ただ、大学は「メールなど個人情報が詰まった携帯電話を他人に貸すことはしないはず」と話し、出席率アップに期待を寄せている。【井上俊樹】

http://mainichi.jp/select/today/news/20090515k0000m040087000c.html

iPhone無料配布は単純にうらやましい(持っているのにうらやましいのか!)とか、「基本料金」ってどっからどこまでなんだろとか、ソフトバンクには超おいしい計画だなとか、「大学で一斉に利用するのは初めて」とあるが、社会情報学部だけなんだから「大学で一斉に」というと語弊があるだろとか、すでにメインの携帯を持っている学生ならiPhoneは出席専門端末になって、余裕で貸与〜代返が可能なのではないか、どこが「脅威」なんだよ、などという些末なことはおいておいて。

それより今回問題にしたいのは「大学は…出席率アップに期待を寄せている」という部分。新聞記事なのでどこまで正確に大学側の言説を伝えているのかは分かりませんが、仮にこの通りのことを言っていたとして話を進めますと、ぼくの感想としては「こんなこと言っているようじゃ日本の大学の授業中の私語はいつまでたってもなくならないだろうな」ということです。

そもそも、出席を成績評価に入れる意味があるのか?

少人数クラスや演習ならあるでしょう。こちらが質問して答えてもらうといったインタラクティブな授業形態が可能なので、出席すること自体が授業に対する貢献だと考えられるからです。

しかし大人数クラスに「出席」するのは「授業への貢献」になるのか。もちろんなりません。ならないならば、それを平常点として成績に加味する意味はないということになります。

ぼくは、大人数講義の授業評価アンケートで「出席を取ってほしい」という意見を毎年もらいますが、いくら授業に出ていても、漫然と聞いていたり携帯でメール打ったり寝たりしているんじゃ出ていても意味はありませんし、出席すること「自体」には価値はないということになります。出席に「価値」が生まれるのは「内容を聞いてきちんと理解した」場合のみです。そして、「理解したかどうか」は定期試験で計測します。よって、出席を評価に取り入れる必要はまったくないということになります。(ぼくは一学期間に複数回試験をするので、「試験一発勝負」のリスクも小さいと考えています。)

これがもっとも合理的な考え方だと言うのが現時点での結論です。実際、例えばアメリカの大学の大講義では出席など取りません(少人数では取ることがあります)。

とはいえ、150人登録の授業に30人しか出てこなかったら、それはそれで問題です。しかしそれは学生側の問題というよりも、講義構成や授業運営の問題ではないでしょうか。

「出なくても単位が取れる」とか「ちゃんと聴いてもわけがわからない」という授業なら学生は来ないでしょう。出るメリットないですから。一番良いのは「出ないとわからない」「ちゃんと聴いていれば良い成績が取れる」運営をすることでしょう。ぼく自身がそれを出来ているかはともかく、そのような授業にすれば出席を取らなくても出席率は上がるはずです。そのようにして出席率があがれば、そもそも出席を取る必要もなくなります。

ですから、上の記事に戻ると、<出席確認システムを強化>することによって「出席率アップに期待を寄せ」るという大学の姿勢はいかがなものかと思うのです。

大人数講義で出席を取る弊害は、「時間と労力がかかる」こと(この問題はiPhoneで解決する?)の他に、「授業を聴く気がないのに出席点をもらうためにだけそこに座っている学生」が増えるということが挙げられます。

江草さんも言っていましたが、授業に出る出ないは学生の自由だし、単位を取ったり落としたりするのは学生の責任です。だから授業を聴かないなら聴かないでかまわない。だから、はっきりいって聴く気がないなら来るなと言いたい。どうせ聴かないならもっと有効なことに時間を使えと。

ところが、出席をとると、聴く気がはなからない学生を招いてしまうことになります。で、聴く気がないからぺちゃくちゃしゃべったりする。

考えただけで恐ろしいですね。授業中の私語というのはおぞましいものです。これを考えただけで出席を取る気がなくなります。なのに、ですよ。未だに大学側が「大講義で効率的に出席を取るシステム」の構築に腐心している実情がある。日本の大学の講義から私語が消える日は遠そうですね。ちなみにアメリカの大学では私語など皆無です。

ちょっと話が長くなっていますが、もう一点だけ。

実は、「出席を取りたい」という教員側の動機には、「試験の点だけじゃひどすぎて成績を付けられない」ということも往々にしてあります。

つまり、不可をあまり量産すると問題だから、成績にゲタを履かせる必要があるが、どうせゲタを履かせるなら全員に平等にゲタを履かせるより、「出席」のご褒美として、出席率に比例してゲタを履かせたいという、たいへん温情あふれる動機です。

しかし、上で書いたように出席したとして、講義を全然聴いていない、あるいは聴いてもさっぱり理解していないようじゃ意味はないんです。オリンピックじゃあるまいし、「参加した事に意義がある」なんてことにはならない。

「試験をしたら履修者の半分が不合格点(60点未満)」という状況があるなら、出席点とは別の方法でそれを解決する必要があるのではないでしょうか。

授業のレベルや試験のレベルを再考するのは当然有効だと思いますし、講義内容のレベルを下げたくないなら、専門的な概念をなるべく平易に説明する努力も効果的かと思います。

しかし、一番直接的に効果があるのは「中間試験をやる」ということです。一学期に複数回試験をするということは、一回一回の試験の範囲が狭いということです。試験範囲が狭いということは、試験勉強がしやすいということです。試験勉強がしやすいということは点数を取りやすいということです。また、「ヤマかけ」の必要が小さくなり、「ヤマがはずれた」ことによって落第点を取るケースが減ります。

ただ、150人ぐらいの授業なら余裕ですが、300人とか400人とか言うマスプロ授業で中間試験をやるのは難しいかもしれません。ならばマスプロ授業をなくす方法を考えるとか(400人って、コンサートか!)、あるいは大学院生を採点要員として確保することを検討するとか(←これがまた文科省の規制などで簡単にはできないのですが)、いろんな生産的な方向が考えられると思います。

大学の講義の質を上げたいなら、むしろ大人数講義で出席を取るのをすべて禁止することから始めるべきでしょう。それで出席者が激減するのであれば、それを解決するために何をしたら良いのか、本当に真剣に考えるべきです。ただ出席を取るためのテクノロジーにお金をつぎこむなんて、新聞広報的にはおいしいかもしれませんが、正直、なんだかなあという感じです。



【追記 5/16】

大学プロデューサーズノート(5/14)」によると、今回のiPhone配布の主眼は、iPhoneアプリの研究や開発、モバイルネットワークの実践的研究にあるそうで、出席取るのはオマケだそうな。

ちっ、やっぱ新聞メディアのピントのずれた報道だったか。

ちなみにiPhoneアプリはシンプルで楽しく、iPhone内のリソースがものすごく限られている(メモリが少ない、CPUが非力,画面が小さいほか、バックグラウンドでの動作禁止など、様々な制限がある)ぶん、ハードコアなプログラミング能力より、アイデアの斬新さやちょっとしたユーザーインタフェースの工夫が物を言う世界で、「自分も作ってみたい」と思わせるプラットフォームであります。学生さんの教育にはぴったりでしょう。

かくいうぼくも時間があったらアプリ作ってみたいんだけど、その時間はねえなあ…。iPhone用タイピングアプリ(web)も、最初は普通のiPhoneアプリにしようと思ったのだけど、時間がかかりそうなので手軽にウェブですませた次第です。てか、最近やってないな>タイピングアプリ。改善したいとは思っているのですが。