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「新卒就活は4年の夏から」の効果は?

新卒就活は4年の夏から 経団連、長期化に配慮し徹底へ

 日本経団連幹部は24日、新卒採用選考の開始時期を、4年生の夏以降に徹底するよう申し合わせる方針を明らかにした。雇用情勢の悪化を背景に学生の就職活動が年々早まっているため。経団連が加盟企業向けに策定している新卒採用のための「倫理憲章」にも盛り込み順守を呼びかける。早ければ10月中旬の正副会長会議で正式決定する。

長期化する就活期間に大学側は「学業がおろそかになる」と強い懸念を示している。企業側も「優秀な学生とそうでない学生とが二極化している」(大手メーカー)と学習経験が十分でない学生が増えていると指摘している。

 このため三井物産伊藤忠商事など商社を中心に構成する日本貿易会(槍田松瑩(うつだ・しょうえい)会長)は平成24年入社の新卒から採用試験の時期を遅らせ、選考開始時期も見直す方針を決定。経団連にも雇用委員会の新卒採用ワーキンググループを通じて採用活動を遅らせるよう提案した。

賛否両論のこの記事について、コメント。

ぼくはアカデミアの一員として、かつては「就活は学業の敵」と考えていたのですが、就活関係の本をいくつか読み、就活の実態を(間接的にではありますが)知るにつけ、就活は必ずしも大学教育の敵だとは考えないようになりました(参照:佐藤孝治「<就活>廃止論」から大学を考える高校と社会のはざま〜大学を考える:まとめ)。むしろ、「言われたことをなんとなくテキトーにやっていればそれでOK」という学生の甘っちょろい考えを吹き飛ばすのに役立っている側面もあるとさえ今は思っています。

日本の大学生の学業に対する「受け身の姿勢」は異常であり、それはとりもなおさず、現状の入試制度のせいであります。しかし、臨まれる入試改革(参照:高校と社会のはざま〜大学を考える:まとめ大学入試にエントリーシートを!)が進む気配のない現状では、学生に「自分の足で立たなければ駄目だ」ということを自覚させる機会は、大変残念なことですが、就活しかないというのが現状だと思われます。

その観点からすると、就活の開始が遅れるということは、むしろ望ましくないことだと言うことになるかもしれません。実際、就職コンサルタントの佐藤孝治氏もtwitter(@kojisato515)で「学生が社会と接点を持つタイミングが遅れてしまうことになった場合、問題はますます深刻化してしまう」「『企業が内定を出さない』という現実によって『社会で活躍する基礎力が足りてない』という評価を4年の春に知るというのが現在のパターン。企業からのフィードバックのタイミングが遅くなるだけになってしまうのではないか」と、今回の提言に懐疑的です。

で、ぼくの感想を簡単に述べますと、まず、多くの人が指摘している通り、この倫理憲章が実効を持っても、憲章に参加していない企業がこれまで通りの採用活動をする可能性があるため、「就職活動の長期化」の根本解決には実際にはつながらないかもしれないと、ぼくも思います。しかし、そのかわり、「就職活動の多様化」が起こってくれるかもしれないと淡い期待を抱いています。

現在の新卒一括採用制度の一番の問題は、就職活動の方法論が画一化・マニュアル化してしまっているというところです。本当はマニュアルに従っているだけでは内定は取れないんですが、それに気付かず、レミングの群れのように「回りがやっているから自分も」という感じで一斉に就活を始めるという、その光景が実にキモい。不気味。もし、業種によって採用開始時期が大幅に異なるという状況に変わってくれれば、おんなじ時期にいっせいにキャンパスが黒服でいっぱいになるということもなくなるかもしれないし、自分がどの時期に活動を始めればいいのか、学生が自分の頭で考えるようなことになってくれたらいい。そういう期待を持っています。

さらに、4年生の9月から採用活動を始める企業が多くなれば、必ず就職浪人が増えるでしょう。それによって、なし崩し的に新卒一括採用の神話が後退してくれまいか、「卒業してから就活に本腰を入れる」というパターンが生まれる可能性はないだろうか、と言う、これまた淡い期待を持っています。

まあ、甘すぎるかもしれませんが、今回の動きによって、採用の形がもっと多様化してくれたら、もしかしたら良い効果もあるかもしれないというほのかな期待を持っています。

また、4年の9月からの就活となれば、これまで就活にほとんど何の影響もなかった「卒業研究」の重みが俄然増してきます。卒業研究の重みが増すということは、2年3年でどういう勉強を、どういう自覚をもってやってきたかが、これまで以上に大切になります。これは教員にとっては当然良いニュースとなります。

ということで、全般的には、この提言には賛成です。

ちなみに「憲章にはどうせ実効性ないだろ」という意見もあり、それももっともですが、しかし、企業の側にも採用活動を送らせるモチベーションというものは当然あります。それは、現状のシステムだと、内々定と入社のタイムラグ(半年〜へたしたら1年)が大きすぎるということです(参照:「就職の現状を考える」に便乗)。内定取り消し問題が近年話題になってますが、その問題も、企業側からすれば、ようするに採用が入社に比べて早すぎるのがいけないわけです。企業側にはこれを是正したいというインセンティブがあるかと思います。ですから、この憲章が実現すれば、(少なくとも好況になって人手不足になるまでは)実効性を持つことは十分考えられると思います。

この問題については今後も注視していきたいと思います。