病院坂の首縊りの家 (1979) ★★★★

病院坂の首縊りの家 [DVD]


director: 市川崑
screenwriter: 日高真也、九里子亭

あらすじ:
引退してアメリカに発とうと計画していた金田一耕助(石坂浩二)はパスポート写真を撮るために写真館に来ていた。金田一が探偵だと知ると、写真館の老主人は自分の命が狙われているので調査してほしいと依頼する。その後、その写真館にどこか現実離れした美しい女性(桜田淳子)が現われ、結婚記念写真の撮影を依頼する。しかし場所は言えない、迎えの者が案内するからと言う。後日、花婿らしき男がやってきて写真屋を記念撮影の場所に案内した。そこは病院坂の首縊りの家と呼ばれる廃屋だった…。

リビュー:
あれ? けっこうおもしろかったぞ。

小説「病院坂の首縊りの家」は「金田一最後の事件」をあつかった作品であり、また実際に横溝正史の遺作となった作品なんですが、同時に映画としても、市川・石坂コンビの最後の作品でもあります。で、どちらかというと、小説としても映画としてもマイナーな作品だし、ファンの間で人気が高いという話もきいたことないんで、全然期待してなかったんですが…。

区切りを意図された作品ですので、市川版横溝映画にこれまで出演した役者さんがこれでもかというぐらい登場します。石坂、加藤武(等々力警部)、あたりは当然として、あおい輝彦(犬神家)、萩尾みどり(女王蜂)、中井貴恵(女王蜂)、ピーター(獄門島)、三木のり平大滝秀治、などなど…。しかし、その同窓会的な配役が逆にちょっとウザく感じられる瞬間も。…と言っておいてなんですが、過去の出演役者さんといえば、ぜひ坂口良子が出ていてほしかったなあ。

で、その「同窓会」的な雰囲気を決定的にしているのが冒頭のシーン。横溝がえらい長いシーンで出ておりまして、いや、もともとわりに出たがりな人で今までもちょい役で出てたんですが、今回はセリフが多い。しかもあきらかに自分をモデルにした「老小説家」の役で、その「老小説家」が「旧友」の金田一耕助と会話するというのは、まあ、遊びということだろうけど、正直あざとくて好きになれん。しかも、あたりまえだけど台詞棒読みだし…。女王蜂のヒロインだった中井貴恵が横溝のアシスタントみたいな役なんだけど、これも死ぬほど大根で、もう、観ていて萎えまくり。このままのヌル〜い雰囲気で最後まで行くのかと危惧したんですが…。

ところが、以降、小雪(桜田淳子)が出てくるあたりからがぜん良くなってくる。桜田淳子といえばどちらかといえば庶民派で売った人だと思いますが、横溝の耽美的世界に合うなんて意外。実際すごく美人で見直しました。これで統一教会じゃなかったら…。

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で、横溝作品名物の「死体飾り」やシンボリズムも今回も健在。「なんでわざわざそんなことすんねん!」とツッコミを入れつつも、乱歩〜横溝〜京極と引き継がれるこの世界観はやはり良いですね。

ただ、例のごとく市川監督の「モダン趣味」が随所に顔を出すのがちょっとなあ…。いや、これこそが市川版が大ヒットした理由だというのはわかっているんですよ。そのままでは一般受けするにはおどろおどろしすぎる横溝映画に「軽さ」を導入することになっているのだから。でもなんか手法が古いうえに効果的でもないから萎えるんだよなあ。今回は設定が1950年代なのに、登場する若手ジャズバンドがエレクトリック・ジャズやってるし。マイルズを超えとるがな! 原作の舞台設定がもうちょっと新しかったからそれに引きずられたのか? あと、デ・パルマがやるとカッコいい画面分割もいまいちダサいし…。「脅迫電話の連鎖」のシーンとか、スタイリッシュさがうまく機能しているところもあるんだけど。

とまあ、不満もあるんですが、全体的にはおもしろいと思いましたよ。ストーリーもいいしテンポも悪くないし役者も個性的。なんでこの作品あまり人気ないんだろうと不思議に思ったぐらい。あいかわらずというかいつも以上に人間関係が複雑で、ちょっとわかりにくいんだけど、そのせいかな。

あと、ヒロインの桜田淳子も良かったが、それ以上に良かったのが、脇役で金田一の助手まがいのことをやる草刈正雄! これまた常軌を外れたほどの男前なんだけど、今回は落ちつきのない早口の三枚目を熱演していて、それがすんごいハマっている。草刈が出てくるたびにもう目はそっちに釘づけ。コメディリリーフとして最高の仕事をしています。

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ということで、おもしろかったです。市川・石坂コンビのラストを飾る作品として、力作だったんじゃないかと。