教員の教育能力向上研修、全大学に義務づけ 文科省

http://www.asahi.com/life/update/1217/009.html

文部科学省は、すべての大学や短大に対し、教員の教育能力を向上させるための研修を義務づける。授業に不満を持つ学生が多いためで、このほど中央教育審議会(中教審)の部会でこの方針が了承された。...07年度にも大学・短大の志願者総数と総入学者数が等しくなる「大学全入時代」を迎えるため、各大学は学生の教育充実に力を入れており、文科省の調べでは全体の4分の3がFDに取り組んでいる。ただ、講演会など形式的なものが多く、能力向上に結びついていないとの見方が多い。...全国大学生活協同組合連合会の調査(05年、9900人が回答)では、授業に不満を持つ学生は55%。文科省は大学全体の教育力の底上げが必要だと判断、中教審大学分科会の制度部会に諮り、「努力義務」とされてきた研修の義務づけを含む大学設置基準の改正方針が14日の会合で了承された。

この話は、10月ごろからあったようで、検索すると、こちらのブログ→「教育力向上のため、全大学教員に研修義務化 08年度にも : 大学プロデューサーズ・ノート」などでも取り上げられています。このブログの方のご意見は穏健で至極まっとうなものであると思います。

オレ自身は、この動きにはもうちょっとネガティブな考えをもっています。

まず第一に思うのは「やれやれ、お上の研修好きにも困ったものだ」ということです。「研修」があれば安心なんでしょうかね? 上記ブログでリンクされているmainichi-msnの10月の時点の記事では「07年度に大学・短大の志願者数と定員数が同じになる大学全入時代を控え、経済界には『企業で戦力として使える人材となるように教育してほしい』と、大学教育の充実を求める声も強い」とありますが、おいおい、大学って企業人を育成する場なのかよと思ってしまいます。ここんところ、経団連のオッサンなどが教育などについて発言する機会が多いようですが、日本人の教養教育がますます薄っぺらなものになっていく予感。

第二に、全大学に研修制度義務づけって、そのカネはどこから出てくるわけ? ちゃんとした研修制度を設けるんだったら専用のアドバイザーや、施設も必要になると思うけど…。現在の自動車免許講習みたいな、無意味で時間だけを浪費する講習会やって終わりって感じになる予感。

第三に、誰が対象なの? 全教員? それとも新任の人だけ? まあ、たぶん新任の人に対する研修ということになるんだろうけど、でもさあ、師匠についていれば職にありつけた昔と違って、今は大学教員になるのってものすごく狭き門なわけじゃん。一つの募集に対して競争倍率90倍とか100倍とか、普通なわけですよ。研究業績に対する審査も厳しい、さらに、最近は最終選考で模擬講義を課してそれを採用基準の一つにしているところも急激に増えているわけで。それもあって、最近の若い教員は優秀だと思いますよ、皆エネルギッシュで授業も学生に人気あるし、って「若い」の中に入るかもしれないオレが言うのも何ですが。新任より年配の教員の方に研修が必要なんじゃないの? と一部の同僚とも話したりしています。(もちろんベテランの方にも素晴らしい授業をやって人気のある人が少なからずいるのは承知しています)

第四に、新任の人に無条件に形式的な「研修」を受けさせるよりも、TA制度を拡大して、院生のうちから教育の経験積ませろよと言いたい。今の日本ではTAが教鞭をとることはもちろん、授業に深く関わることも許されてないんだよね。アメリカみたいに奨学金制度とからめて多少でも教鞭をとらせて、その過程をモニターすることで教員としての教育を受けさせたほうが建設的では? 院生支援にもなるし。

第五に、これが一番強く思うんだけど、「全入時代」だからこそ、大学はいやがおうでも淘汰の時代に入っているわけで、「授業に不満を持つ学生は55%」と言っても、結局学生に人気のない大学は淘汰されるんじゃないの? ほっとけばいいじゃん。大学は全入時代に危機感を持ってますよ。それぞれ生き残りのためにいろんな「工夫」しようとしているわけで。その中に「教育」のあり方というのも当然入ってますよ。偏差値よりも、学生の満足度や教育の充実度などによって受験生が大学を選ぶようになれば、自然と教育が駄目な大学は消えるでしょ。それを、全大学研修義務化という「上からの一律指導」でなんでもなんとかしようとしているのは、いかにも日本的というか、非自主的というか、非創造的というか。

てゆうかね、「経済界」も新卒信仰と学歴ランキング主義をやめろよ。受験生が大学の提供するサービスの質や内容よりも偏差値ランキングで志望大学を決めているのはむしろおまえらのせいだろ。