遊星からの物体X (1982) ★★★★★

だいぶ前に観た映画の、だいぶ前に書いて未アップロードの感想文。カーペンター映画。

ジョン・カーペンターといえば何と言っても近代ホラーの金字塔「ハロウィン」が有名だが、ファンにとってはカーペンターといえば、愛すべき「手作りB級映画監督」の最高峰。ロジャー・コーマン魂を受け継ぐ監督であると同時に、コーマンより映画作家としての才能があり、またコーマンのような山っ気はなく、あくまで自分のペースで傑作や愛すべきトホホ作品を送り出してきたヒトであります。

で、この作品は間違いなくカーペンターの作品のうち、もっとも緻密な作品。その意味、「緩さ」が持ち味のカーペンターらしくない作品とも言えるのだが、どこか薄暗く寒々した雰囲気、陰気な音楽(カーペンター印にしかきこえないがなんとモリコーネ!)、生々しいサスペンス、そしてカート・ラッセルと、カーペンター印は健在。

この映画がカーペンターらしくないと思われる一つの要因は、ロブ・ボッティンによるSFX効果の派手さですね。ボッティンは「ハウリング」「ロボコップ」、最近では「セブン」など、誰もが「ああ、あれね」と思い出せるような、グロくて個性的な特殊メイク造型の第一人者なのだが、この「物体X」はまさにボッティンの真骨頂。インタビューでも語られているが、当時20歳そこそこだったボッティンに、カーペンターは制約なしに自由な表現の機会を与えたのだそう。そのインパクトが強すぎて、かえってローファイな「カーペンター色」が薄まることとなるのだが、でもやっぱりボッティンのSFXは観ていてとても楽しい。スパイダーヘッド最高!

で、この作品はもちろん、グロ楽しいSFXだけではなく、心理サスペンスとしても非常に良く出来ており、リドリー・スコットの「エイリアン」(1979)と並ぶSFホラーの傑作。まあ、決してぬぐうことのできないB級魂ゆえ、「エイリアン」と並べるのはちょっと違和感あるかなとも思うのだが(てゆうか舞台が違うだけでプロットは「エイリアン」の二番煎じだし)、B級映画が限りなくA級に近づいた最高峰作品であることは間違いない。