PowerPointは教育に良くない?

さあ、連休だというのに風邪引いて仕事も山積みだけど、更新するぞするぞするぞ!…ゲホッゲホッ(←喉風邪なんです)

スラドにあった話題。

 …オーストラリア・ニューサウスウェールズ大の研究によると、PowerPointのようなプレゼンテーション・ソフトウェアを用いた教育やミーティングは学習効率が悪いことが判明した(シドニー・モーニング・ヘラルドの記事)。
 この研究では、外部情報の記憶と処理における脳の特性に着目。人間の脳は、「聞く」か「読む」のどちらかに専念したほうが、両方から同時に情報を得るときよりも情報の処理が効率良く行われることを明らかにしたという。

http://slashdot.jp/article.pl?sid=07/04/08/2136245

オレはマカーの鑑として、PowerPointではなくKeynoteを使っていますが、プレゼンソフトには相違ないので同じことですね。オレはある程度以上の講義、たとえば70人以上の講義ではまずプレゼンソフトを使います。でも、「人間の脳は、『聞く』か『読む』のどちらかに専念したほうが、両方から同時に情報を得るときよりも情報の処理が効率良く行われる」というのはまったくその通りだと思いますね。ですから、「読まなければならない」ようなスライドを作ってはいけないのです。

よく、授業評価のコメントで「PowerPointのスライドの進みが速すぎる」という評価が出たというのを耳にしますが、それは、スライドに情報を入れすぎている証拠です。おそらく、世のPowerPoint使いのセンセイには、このへんを勘違いしている人が一定数おられると思うのですが、スライドというのは情報を記述する場所ではなく、トピックを記すペースメーカーに過ぎないのであります。つまり、「今私はXXについて話しています」という情報だけあればいいのであって、肝心の内容はスライドに書かず、自分の口でしゃべるべきなんですよね。(当たり前すぎる?)

実際、「聞く」と「読む」を同時にやるなんて、聖徳太子じゃなければできません。もしスライドにいっぱい文字が書いてあったら、聴衆は読む方に専念して聞きません。ですから、スライドにはあくまで「ぱっとみて識別できる文字量」で「トピック」を書いておいて、聴衆がそれを読み終わるタイミングでゆっくりそれについてしゃべりはじめればいいのであります。

オレの根拠の無い偏見では、Keynote(Appleのプレゼンソフト。PPTと大して機能は変わらないがなんとなく使いやすい)のユーザはこういうことは分かっている人は多いのではないかと。なぜなら、ジーパン禿ことスティーブ・ジョブズのカリスマプレゼン(もちろんKeynoteを使っている)を見れば、良いプレゼンの極意とはスライドに何も書かないことであるのは一目瞭然だからです。ちまたでは、「高橋メソッド」(→リンク)が話題になったりもしましたが、ジョブズのプレゼンのスライドは高橋メソッドよりさらに情報量が少ないですからね。(ただ、「高橋メソッド」のもう一つの肝は「文字しか使わない」なので、その点はジョブズのプレゼンは異なりますが。もっとも、グラフィックが使える状況でグラフィックをあえて使わない理由もあまりないかとも思いますが)

とはいえ、授業運営の場合、ある程度込み入った内容だとスライドに内容を書かざるをえなくなります。その場合は、なるべく簡潔な言葉で箇条書きで文章を並べるのもありかもしれません。しかし、前述したように、読むことと聞くことを同時にやるのは難しいので、文章をスライドに出したときは、こちらも同じ内容を音読してやる必要があります。そうすれば、こっちが違うことをしゃべりたいのに聴き手はこっちの言うことを聞かずにスライドを読んでいるということがなくなります。

また、授業というのは90分という長丁場です。よく「最近の学生は集中力がなくて…」という嘆きが聞こえますが、90分なんて集中力普通は続きませんって。我々だって学会で「90分の招待講演」があったとしたら、よっぽど興味のある内容か、自分の専門とドンピシャリでもない限りはなるべく欠席したいかも…と思いませんか? オレだけですか? それはともかく、90分ずーっとスライドをぱらぱらめくるんじゃ、その単調さに聴衆の集中力は消えてしまいます。ですから、適宜ノートをとらせる必要があります。

ノートをとらせるにも色々な方法があります。オレの場合、授業の際には必ずスライド印刷してハンドアウトとして配布しますが、そこで有効なのは、「あからさまに重要なポイント」をわざとスライドに載せないことです。ここでも、「スライドに情報を載せすぎない」ことがプラスに作用するわけです。また、オレも時々やるあざとい方法ですが、スクリーンに映し出されるスライドの情報の一部をわざと削って、虫食いにして配布することも考えられます。実に子どもじみた方法ですが、まあ、アホの子にもわかりやすい方法です。「もんたメソッド」(→リンク)は、この手法にギミックを加えたものと考えることができるでしょう。

しかしもちろん「授業中はスライドの穴埋めだけしていれば良い」と思われたら困ります。さらに高度な穴埋めとしては、一枚のスライドに「まとめ」と題して、ブリットだけ打っておいて白紙のままにしておき、「今からオレがまとめをしゃべるから、それを各自書き留めるように」と宣言してしゃべるという手があります。スライドにまとめを映し出すと学生は「写経モード」になりますから、良くありません。しゃべるのが一番です。そうすると学生は教員の言うことを聞かざるをえなくなり、さらに、聞いたことをまとめるために頭も多少は使わなければならず、一石二鳥です。また、こういうアクティビティーを90分のなかにまぜると、単調になりがちなスライド・プレゼンも緩急がつきます。また、「スライドの進みが速すぎる」と言われることもありません。

よく、「板書はプレゼンソフトより優れている」と言う人がいますが、板書も学生を「写経モード」にしがちなのでベストの方法とは言えません。「黒板に書いてないことはノートにとらなくて良い」という間違った意識を持つ学生が増えている昨今ですし。ハサミも使いようということでしょう。

ところで、上記スラドで円グラフのみでプレゼンする「べつやくメソッド」というのがあるのを知りました。オリジナルは→ここで、実際にインプレスのレビューで応用したのが→ここ。おもしろい! 使ってみたい! けど、レビューには向いてるけど、体系的知識を教えるのが目的である授業では使えないかなあ…。ちなみに、ウェブ上で「べつやくメソッド」の円グラフを作成できる「べつやくメソッド用円グラフ生成君」なんてサイトもあったりして(→リンク)。使い道を考えたいと思う所存です。

べつやくメソッド用円グラフ生成君で生成してみた
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