学生のコピペ・レポート検出サービス,日本進出へ

大学プロデューサーズノートさん(7/2)の記事で知ったのですが,アメリカの大手「コピペ検出」サービスのturnitin.comが日本語対応になるそうです。こちらにそのサービスの概要(英語版)がありますが,アプリケーションではなく,ウェブベースのサービスで,俎上にのぼる学生のレポートを,論文や記事のデータベースと照合して,コピペ具合を探知するものだそう。しかも過去に当該サービスにかけた学生の論文もデータベースに蓄積されるので,学生同士の写し合いも検出してくれるのだそう。けっこうおもしろそうですね…って,おもしろいとか言ってはいかんのですが。

ウェブの発達にともなって,「剽窃(ひょうせつ)=plagiarism(=原稿の盗用)」の問題は大学では世界的に問題となっていて,きょういんは対応に苦慮しているところだと思います。こういう剽窃検出サービスも将来は大学ごと購入したりするようになるのでしょうか。

ただ,盗用は絶対にやってはいけないことですが,一方,この高度な情報社会の中で,ウェブを参考にするなというのも時代錯誤な考え方です。もちろん紙媒体の専門書が大切なのは当然のことですが,がくせいがウェブを検索してトピックについて調査することを止めることはできないでしょう。

で,問題は,ウェブにはレポートに使えそうな論説がたくさんあるということです。この問題は特に,研究成果をウェブで公開するということが進んでいる英語圏では大きな問題となるかと思います(それに比べて日本のアカデミズムのウェブの使い方はたいへん貧弱であります)。それで,ウェブで調べ物をしたとしても,ちゃんと出典を示して引用すれば良いのですが,本当に問題なのは,レポートのトピックに対する詳細な論考が見つかった場合です。まだ勉強途中のがくせいが,トピックについての深い論説を見つけてしまったら,そのがくせいはどうしたら良いのでしょう。ウェブで見つけた論説より深い論考を加えることがおよそ不可能に思える場合,がくせいはそれを前にして途方にくれるのではないでしょうか。

こうなると結局,剽窃を嘆く前に,レポートのお題の出し方ということが重要になってくるのではないかと思います。たとえば「高齢者医療について調べてレポートを書け」と言うようなお題の場合,それについての論説はウェブにも紙媒体にも山ほどありますから,がくせいが盗用したくなる,あるいはせざるをえなくなるのはある意味当然と言えるでしょう。そういう漠然としたトピックでは駄目だということです。そうではなく,むしろ「高齢者医療について述べた論考を本・雑誌・ウェブから5つ取り上げて要旨を挙げ,それを講義でとりあげたXXという視点から批判的に比較論考せよ」というような,ポイントを絞ったお題にすれば,剽窃しにくくなるのではないかと思われます。

ちなみにぼくはどうしているかというと,ぼくは一応文系とはいえ専門分野が一般的な人文とは違うので,そもそもあまりレポートを書かせる必要性が高くありません。それでも蝉では書かせますが,一般的なお題でレポートを書かせることはまずありません。だいたい蝉で取り上げた論文(多くは英語で書かれたもの)について,その要旨を素人にもわかりやすいようにまとめ,自分なりに考えたことを最後にちょっと書いてください,という程度のペーパーを一年間を通して多数書かせます。蝉で取り上げるような専門的論文の要旨を日本語で書いてくれているようなところはウェブにもありませんので,剽窃の心配はほとんどありません。要旨だけじゃ創造性が伸びないんじゃないかと思う方もいるかもしれませんが,ぼくはそもそもだいがくのがくぶレベルの教育にどれほどの創造性が必要だろうかと思っています。がくぶといえば,学問の世界でいえば丁稚見習いレベルです。見習いに大きなシゴトをまかせる棟梁はいません。どうしてもオリジナリティーを発揮したければ,要旨を書いたそのあとに付記してもらえればいいし,それに卒論も必修なのでそこで思う存分オリジナリティーを発揮してもらえれば良いという感じです。

ということで,個人的には剽窃に悩んだことはあまりありませんが,それでも皆無というわけではありません。きょういんというのはがくせいに「ズル」をされることを何よりも最も嫌いますから,この問題は今後もついてまわるでしょう。turnitin.comがどの程度の威力なのか,それ以前にいくらぐらいなのか,興味を惹かれるところです。