チーム・アメリカ (2004) ★★★

サウスパークのトレイ・パーカー&マット・ストーンによる、傍若無人な「世界警察」、チーム・アメリカ金正日率いるテロリスト軍団の闘いをマペットで描いた活劇コメディー。

思ったより普通。マペットとセットと撮影のクォリティーが高すぎて、意図した「マペットで活劇を撮るマヌケさ」が十分出なかったのかも。それから、ベン・アフレックと「パール・ハーバー」をコケにしたラブソングは爆笑したけど、ハリウッドの左翼俳優たちがかたっばしから虐殺されるくだりにはちょっと引いた。ブラッカイマーの馬鹿アメリカンムービーの風刺が意図されているのはわかるが、実は半分ぐらい本気でマッチョ・アメリカを礼讃してんじゃねーの?…と勘ぐりたくなった。

コマンダンテ (2003) ★★★

オリバー・ストーン監督がフィデル・カストロに密着取材したテレビ向けドキュメンタリー。

カストロってやっぱり愛嬌あるなあと思った。いわゆる共産・社会主義系の独裁者にはない包容力が感じられる。でも、テレビ向けということで、ドキュメンタリーとしては大変中途半端で物足りない作品。

花とアリス (2004) ★★★★

岩井俊二監督、蒼井優鈴木杏主演の、一風変わった思春期の恋愛を描いた作品。

とにかくリアリズムとファンタジーの絶妙なバランスが素晴らしい。特に、よく言われるように、蒼井優の演技が素晴らしい。離婚したお父さんと久々に会ったときの蒼井の二度の「いやらしい」というセリフの微妙なニュアンスの違いは本当にリアリスティックで感心した。もちろん監督の演出能力もただものじゃない。メインの主人公、鈴木杏の無様な必死さにも心打たれた。

この映画唯一の欠点は、監督が少女たちを愛し過ぎていること。プロットに対してはウェットになり過ぎないようにクールにはぐらかす岩井監督だが、女の子たちを追う映像の視線がウェットなので、ちょっと観ていて引いた。

街のあかり (2006) ★★★

アキ・カウリスマキ監督。感情表現も社交も下手で仕事も冴えない駄目男が詐欺女にまんまと騙されるが、騙されてもなお未練が残り…という話。

恥ずかしながらカウリスマキ監督作品を観るのは初めてだが、びっくりした。え?これで終わり?!って。人間ドラマなのだが、徹底して映画的ドラマタイゼーションを否定して、記号のように人物が淡々と動く。レゴの人形のように感情を表現しない登場人物。そこから編集と撮影のみで哀愁をにじみださせる仕組みだ。おもしろかったし、また独特の「寒さと暖かさ」が入り交じる色彩感覚や構図が画として素晴らしい(小津的?)と思ったが、いくらなんでもプロットのぜいにくをそぎ落とし過ぎなのではないか。

恋とスフレと娘と私 (2006) ★★★

ダイアン・キートンマンディ・ムーア主演の母娘モノのロマンティック・コメディ。

かなりの駄作。といってもこのジャンルの中では平均ぐらい?結婚を過剰に心配する母親とそれに反発する娘の話だが、とにかく若作りな母親のキャラが痛すぎる。ダイアン・キートンがあと10歳若かったらだいぶ違ったと思うが…。ストーリーも予定調和を絵に描いたようなもの(このジャンルはたいていそうだが)。ちりばめられる「赤裸裸ガールズトーク」も「セックス・アンド・ザ・シティ」にインスパイアされたかのようだが「シティ」にあるウィットもなく、とってつけた感じ。個人的にマンディ・ムーア好き、他の娘役役者が悪くない、腹が立ったわけではない、ということでかろうじて★★★つけるが映画としては明らかに★★。

プレステージ (2006) ★★★

メメント」「ダーク・ナイト」のクリストファー・ノーラン監督。主演はヒュー・ジャックマン(Xメンのウルヴァライン)、クリスチャン・ベール(「バットマン・ビギンズ」「ダーク・ナイト」)。二人の天才マジシャンの公私にわたる、騙し騙されの奇想天外な死闘を描く。

微妙。不満は主に二つ。まず、キャラクター構築が今ひとつのため、なぜライバルのマジシャン二人にあそこまで確執があるのか、必然性が伝わってこなかった。次に、トリックで驚かせてくれるのかと思いきや、登場人物がトリックを発見するだいぶまえに観ていてトリックが分かってしまうので、観ていて種明かしの驚きがない。観ても観なくてもどっちでもいいかなという感じの映画。

ジェリー (2002) ★★★

ガス・ヴァン・サント監督、マット・デイモン、ケイシー・アフレック主演(というか二人しか出ていない)の実験映画。

美しい映画だけれど、プロットに深みがないので、のめりこめない。プロットに深みがないといっても、俳優二人の会話はほとんど即興なんだから、深み云々言うのは筋違いという意見もあるかもしれないが、何もないところに何かを描き出すのが演出技術なのではないか。その点、この映画は何もないところに何も描かれないままだし、だからこそラストの展開がとってつけたように感じられてしまう。次作「エレファント』のための習作という感じか(『エレファント」の感想は →こちら)。

セロニアス・モンク ストレート・ノー・チェイサー (1988) ★★★★

60年代後半の、いつものクァルテットではなく、オクテット編成でのヨーロッパツアーの映像を中心としたジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンクの伝記ドキュメンタリー。エグゼクティブ・プロデューサーはクリント・イーストウッド

セロニアス・モンクはおそらくジャズ界きっての異能で、その異能さゆえ初期のころは「あいつはヘタだ」という誤ったレッテルさえ貼られていたほどだが、予想どおりというか、このドキュメンタリーを見るとやっぱりオフステージの本人も変。いつもくるくる回転しているし、ろれつは回ってないし。

そんな彼が大所帯グループのリーダーとして、外国をツアーするわけだから、そりゃ大変である。ここでのモンクは明らかにナーバスになっているし、リハーサルでの、おそらく相棒のチャーリー・ラウズ(t.sax)しか理解できないだろうモンクの支離滅裂な指示に他のメンバーはとまどっている。それでもツアーが進むにしたがってじわじわとマジックが生まれていく様子がスリリング。

モンクの演奏は、映像によって強化されるものだと思う。「いったいどういう発想であんなプレイをするのだろう?」という疑問が、映像でのモンクの動きを見ているとなんだか納得できてしまう。いや、納得できるような気がするだけで、モンクのプレイが予測不可能なのはやはり同じだが。次はどのキーを叩くのか? 一瞬一瞬に目が離せない。

最後の葬儀のシーンには目頭が熱くなった。これはモンクに感情移入していたがゆえの気持ちではなく、一つの突出した才能の死を悲しく思う気持ち、人類が失ったものに対する哀惜の念だ。