真昼の決闘 [High Noon] (1952) ★★★★★

フレッド・ジンネマン監督,ゲイリー・クーパー主演。

ちょっと前に観たジョン・フォードジョン・ウェインの「駅馬車」(1939)が、ガキの頃観たときはおもしろかったのに今観たらあまりおもしろくなかったのね。なんといってもすごい昔の映画だし、オレのけがれた心ではストーリーの素直さがちょっと合わなかったというか。ジョン・フォードヘンリー・フォンダの「荒野の決闘」(1946)でもまだちょっと古くさいなあと思ってしまった。で、この「真昼の決闘」(1952)大丈夫かなあと心配していたのですが、これは非常に現代的な映画で全然オッケー。いや、オッケーというか、本当に隙がなくてすごい映画だった。

観る前からリビジョニスト・ウェスタンの元祖と聞いていたので、そういう視点で観たのだが、なるほど、ジョン・ウェインが「こんな非アメリカ的な映画みたことない!」と激怒したのも頷ける。なんといってもこの映画では正義感あふれるヒーローが街の人からそっぽをむかれ、むしろ悪玉のならずものの方が人望があるんだから!民衆というものが本質的に善良とは限らないというテーマは、2年後の黒澤の「七人の侍」(1954)や、ちょっと後になるけれども、これまたジョン・ウェインが激怒したというクリント・イーストウッドの「荒野のストレンジャー(High Plains Drifter)」(1973)などにも受け継がれている。

さて、主人公に話を戻すと、この主人公が見事に「ヒーロー」らしくない。いや、私利私欲を捨てて街を守るという信念は明らかにヒーローのもので、そのあたりリビジョニスト・ウェスタンのアンチ・ヒーローたちとは種類が違う、正統派とさえ言えるヒーローなのだが、このヒロイズムは見事なまでに人々の支持を得られず、ヒーローなのに顔面蒼白に。しまいには「あんたは何のために戦うんだ!」と若造に問いつめられて「分からない…」と弱々しく答える始末。このあたりのシーンもジョン・ウェインは「英雄が戦う理由が分からないとは何事だ!!!」と地団駄踏んだんじゃないでしょうかね。ジョン・ウェインと同じく右翼だったというゲイリー・クーパーだけど、ここでは人々に背を向けられてアイデンティティーが崩れそうになる保安官を好演している。オスカー取ったのも納得。メキシコ女(保安官も昔の女)を初め、サブキャラも素晴らしい。

それからこの映画のすごいところは、「ならず者到着まで1時間半」を1時間半で描いたところ。つまり、ほぼリアルタイムの進行。「24」の元祖的な作品ですな。もちろん厳密なリアルタイムではなく、演出上のリアルタイムだけど、非常に編集がうまいので、観る者は緊迫感を共有できる。1時間半をこんなに短く感じたのは久しぶり。本当にあっという間。

隙がなさすぎて、その隙のなさが欠点じゃないかと思ってしまう、そんな映画。

アウトロー [The Outlaw Josey Wales] (1976) ★★★★★

クリント・イーストウッド監督・主演。

本格的なリビジョニスト・ウェスタンの初期の代表作として観た。いろいろな意味で面白い作品だった。すでにウェスタンが映画としては時代遅れになっている時代にウェスタンを製作することの意味、そして、いわゆる古典ウェスタンから一段も二段も下だと思われていたマカロニ・ウェスタン出身のクリント・イーストウッドが監督して主演する意味。イーストウッドはこれらを十分すぎるほど考えて製作したことがうかがえる作品となっている。

なんかね、もう、すべてが「逆」なのね、古き良き古典ウェスタンの。詳しく書くとおもしろくないので書かないけど、とにかくやりすぎちゃうかと思うぐらい、古典ウェスタンの逆を行っている。

あと面白いと思ったのは、ジョン・フォードジョン・ウェインの「探索者」との類似と相違。何年もかけて家族を殺された復讐を成し遂げようと執念深く旅をする主人公のジョージー・ウェールズは、「探索者」の主人公、イーサンをはっきり思い起こさせるけど、でも枠だけが同じで中身が違うんだよねえ。ジョン・ウェイン演じるイーサンが追っていたのはコマンチのリーダーだった。ジョージーが追っているのは白人。追ってる対象がいわば逆。イーサンの旅のお供はインディアンの血の入った白人の若造だったけれども、ジョージーのお供は白人文化に同化したインディアンの老人。イーサンは徹底してインディアンを憎み、また女性差別的、そして心に底知れぬ闇をもっていて人間的にとっつきにくい男だった。それに対しジョージーは一匹狼で復讐の鬼なのはイーサンと同じだけど、インディアンとはガンガン仲良くなるし、女性に優しいし、とっつきにくいようでいて、人に好かれやすい好人物。

そうそう、「探索者」はヒーローに心に闇を持った人間を置いたと言う点で「リビジョニスト・ウェスタンの始祖」と言われている映画なんだけど、「本格リビジョニスト・ウェスタンの初期の代表作」と言われる「アウトロー」は、主人公に好漢を置いている点で逆に古典ウェスタンに近いとも言えて、そのあたりのねじれの構造がとても面白い。

おっと、なんか長くなってきたな。で、この映画でオレが意外だと思ったのは、復讐譚なのに、妙にユーモラスで呑気な時間が流れていること。出だしを観る限りではヘビーな話になりそうだなあと言う感じだし、イーストウッドが数年前に撮った「荒野のストレンジャー」がひたすらダークな復讐譚だったことを考えると今回もダークかと思いきや、旅のお供であるインディアンの老人との禅問答のような会話も手伝って(ジャームッシュの「デッド・マン」(1995)はここからかなりの影響を受けているかも?)、どこか達観したようなロードムービーになっている。

その「空気」をさらに印象深いものにしているのが美しい画。この映画が描き出すアメリカ中西部の自然の様々な姿は本当に美しいの一言。76年の映画だけど、古さをまったく感じさせない瑞々しく鮮やかな映像。これだけでも観る価値あり。

セルジオ・レオーネゆずりの要所要所での決闘シーンの緊迫感、かっこよさもさすが。ただ、打ち合いにいたるシーンの緊迫感は良いんだけど肝心の打ち合いがもう一つ切れ味が良くないのがこの映画の唯一の不満。

それ以外は文句なし。イーストウッドの監督としてのカラーもここで完全に確立されている。正直、イーストウッドの髪がまだあることを除けば、2006年の新作だと言っても違和感ないような完成されたいぶし銀の作品。

荒野の決闘 [My Darling Clementine] (1946) ★★★★

ジョン・フォード監督,ヘンリー・フォンダ主演。いわゆる「OK牧場の決闘」を描いた西部劇の古典。

主演がジョン・ウェインクリント・イーストウッドなどのマッチョなウェスタン・スターとはまったく異なるヘンリー・フォンダということで(ちなみに途中、フォンダが何度もウィリアム・メイシーに見えて困った)、通常のアクション中心のウェスタンとはちょっと違う感じで、ドラマ中心。特にドック・ホリデイを核とするストーリーが中心で、敵役のクラントン一家はむしろ脇役。ドックとワイアットの心の交流が丁寧に描かれていて、ほろりとしました。それに対し,「オッケーオッケー、オッケー牧場」の決闘は、ちょっと肩すかしというか、あっさり。このあたり,時代を感じる。