教育再生系トピックの中で、中高教員の質の向上に関係するものについて、思うことを簡単に書きたいと思います。
その前に、オレの立場を明らかにしておきますと、オレは教員の質の向上は、少子化が進む中、淘汰によって行われるべきであって、上からやいやいと口を出して是正しようとする方向はどうかと思っています。なぜ、「上からの指導で教員の質を高めようとする」方策が有効でないとオレが考えるのか、以下がその理由です。
- まず、「上」は教育の現場を分かってない(現場にいないんだから当然です)。事実、再生会議もトンチンカンなことを言っているし、その状況で「上」からの直接介入で教員の質を変えようとしても効果に疑問がある。
- それから、日本伝統の「お上にさからうな」気質の問題。「上」が要求することが多ければ多いほど、現場のトップは、「上」の要求から外れないようびくびくし、奔走します。結果、「下」(生徒側)ではなく、「上」(政府側)を見て教育することになります。つまり、「今からやろうとしていることは生徒にとって良いことだろうか」という基準よりも、「お上からお叱りを受けないだろうか」という基準が優先される傾向が現実として既にあるのです(これ本当)。
- その結果、「上からの取り決め」が実態を離れて形骸化することが起こり、さまざまな不毛な問題に繋がります。ゆとり教育しかり、世界史履修問題しかり。
これでは同じ問題が繰り返されるだけです。
これから少子化で学校間競争が激しくなる一方なのですから、淘汰に期待すれば良いのですよ。その「淘汰」がうまく行くような土台をサポートしたり、道筋をガイドするのが「上」の仕事だと思いますね。バウチャー制は、あのままでは一部の学校のスラム化を招くのは必至ですから、もっと洗練された「淘汰をゆるやかに進ませる」システムをじっくり、慌てず作ることが必要だと思います。
てゆうか、それ以前に、中学・高校の教師の質って昔に比べて下がっているの? その前提自体が怪しいんですけどね。問題教師が報道されているからといって、全体のクォリティーが下がっているかどうかは別問題じゃないんでしょうか。
それはおいておいて、関連報道について、少しずつコメントをしたいと思います。
教員免許更新制度について http://www.asahi.com/edu/news/TKY200607110641.html (現在リンク切れ)
答申は、国民の教員に対する信頼が低下していると指摘。制度導入に伴い、いまは終身有効の免許に10年の期限を設け、満了前に行う30時間の講習で「教員として必要な資質や能力」を保持しているかどうかを評価する。
更新制度自体、考え方としてはいいと思うんだけど、「30時間の講習」というのが気になりますね。「講習」というと、すぐに「自動車免許更新講習」の「形骸化の権化」のようなイメージがわき上がってしまいます。
もちろん、そういう一方通行の無意味な「講習」にはしないと思うんですが、だったら「講習」なんて言わず、はっきりと「再審査」と言えばいいんじゃないの? まあ、「審査」と言うと、特定思想教員を排除するという目的がバレてしまうからそう言わないんでしょうか。
全国一斉に「審査」する形よりも、外部評価などの間接的な方法で淘汰を進ませる方法のほうが良いと思います。
なんでもかんでも中央集権化することによって「正しい」方向へ導こうとする、再生会議らしい提言ですね。
でも、「上」が直接的に指導すればするほど、現場との乖離が起きて、また「建前」が増えるばかりですよ。まあ、そういう方向性こそ日本らしいといえば日本らしいんですけど。もちろん皮肉です。
政府の教育再生会議は5日、学校再生分科会(第1分科会)を開き、教育委員会改革の具体案をまとめた。いじめを放置したり、必修科目の未履修を続けたりするなど教委の事務処理が「著しく適正を欠く」場合などに、文部科学相が是正の勧告や指示をできるようにすることが柱。法案化はこれからだが、これは00年施行の地方分権一括法で削除した規定の復活につながりかねないとの見方もあり、今後議論となりそうだ。
これまた実に再生会議らしい、「政府が管理すれば万事解決」的提言ですね。
教員免許は現行では4年制大学で教職課程を選択し、必要な単位を取得すれば取れる。民主党案では、教員養成段階から教員の資質を向上させることに主眼を置くことになる。
これも駄目だと思いますね。正直、教職課程を身近に見ていると、無駄と思えることが多いんですよね。とらなければいけない科目多いしね。これをさらに2年延ばすのはどうかと…。
もちろん、「教員免許を取るには修士号必須」とかにしてくれれば、大学院という爆弾をかかえる中堅大学からすれば大歓迎ですけどね、大学経営の意味で。
と思ったら、mainichi-msnの方には、6年制というのは院を入れて、ということが明記されていますね。
教員の能力向上のため修士課程を必修とするもので、すでに免許を取得している教員には専門大学院での研修を義務付けることなども盛り込む。
あ、でも、専門大学院ということであれば教育専門でない人文系大学院には恩恵はないですね。むしろ、「教職へのステップとして修士に行く」という人に支えられている中堅大学の人文系大学院は崩壊に向かうでしょう。
ちなみに、asahiの方の記事で、「10年に一度、30時間講習」の更新制について
民主党では、手続きや費用、効果の点でむだが多いとの意見が出ている。
という指摘はもっともですね。ほんとにそんな予算、どっから出すん? 講習の予算削られて、結局自動車免許更新講習みたいな無意味な講習にならん?
かといって、民主党案にのっかって6年必修にすることで効果が果たして見込めるのか、激しく疑問です。現場に出るまでの時間を伸ばすより、現場に出てから適性をチェックする免許更新制の方がマシなような気がします。(でも、繰り返しますが、オレは学校の外部評価などによる自主的な淘汰の方が望ましく、かつ、長い目で見れば効果もあると思います。)
ちなみに「俺の職場は大学キャンパス」さんでは、教職課程6年制について以下のように述べています。
ただ現在、医師や薬剤師と比べて、教員は「職業としてあまり報われていない」印象を世間からもたれているようです
6年制にするなら、教員の皆様にプロフェッショナルとして働いてもらえる環境や、6年間の学習に見合う待遇を用意できるようにしてあげないと、良い人材が教育学部に来なくなるんじゃないかという気はします。
もっともなことだと思いますね。
最後に、余談ですが。
進路相談会などを開いている「ライセンスアカデミー進路情報研究センター」が昨年11〜12月、全国の高校の進路指導教諭と大学・短大の広報担当者に質問を送り、362の高校と180の大学から回答が寄せられた。
再生会議について、高校では37.3%が「あまり期待していない」、39.5%が「ほとんど期待していない」と回答。「とても期待している」「やや期待している」は計18.2%にとどまった。
77%の高校教諭に期待されてないというのは予想以上に高い数字ですね。その理由がこれです。
理由を自由記述で聞いたところ、「現場の声をもっと採り入れた会議を望む」「現場を知らない、有名人を集めたメンバーに疑問」が圧倒的に多かった。「期待する」という意見でも、「現場の声、教員の実情をよく把握したうえで検討を」との注文もあった。
当ブログでも再三指摘しているポイントばかりですが、実際の高校の先生もまったく同じことを考えていることに笑いました。いや、笑い事じゃないな。現場をしらない有名人や財界人が「現場には任せておけない、教育は国が直接指導や、国が!国が!」と叫びつつ、頓珍漢な提言をするのが再生会議の現状であるのは否定できないでしょう。
てゆうか、すでに文科省が再生会議を冷ややかに見ているという状況があるわけですが、それも当然のことでしょう。