ワイルド・アット・ハート (1990) ★★★★

リンチの長編5作目。ニコラス・ケイジローラ・ダーン主演。永らく温存していましたがようやくDVDを購入して観た。男性キャストでは地味目の俳優の多いリンチ作品の中で、これだけはケイジ主演ということで異彩を放っている。もっとも、当時のケイジは後のアクション俳優色はほとんどなかったので、実際はそれほど「派手」なキャスティングではなかったかもしれない。それでもやはり、内向的な男性主演俳優が圧倒的に多いリンチ映画の中で、このケイジの破天荒なキャラクターは異彩を放っているとしか言いようがない。

プロットは、セイラー(ニコラス・ケイジ)とルーラ(ローラ・ダーン)の若い犯罪者ドキュソカップルが、結婚に反対する狂気を帯びた母親(ダイアン・ラッド。ローラ・ダーンの実の母親)から逃避行するロードムービーで、実にシンプル。ほとんど何のひねりもないと言ってよく、これもリンチ映画の本流からはずれている。ちなみに、リンチはこのストーリーを大好きな「オズの魔法使い」に重ね、ルーラをドロシー、セイラーをトト(犬)、母親を悪い魔法使い(ウィキッド・ウィッチ)になぞらえている。DVDのインタビューで、必ずしもハッピーエンドじゃない原作の終わり方がどうしても納得できなくてハッピーエンドにしたとリンチが語っているが、これも「オズの魔法使いにはハッピーエンド以外ありえないじゃないか!」という単純な理由だと思った。

全体としては完全にコメディー(もしかしたらリンチの長編で唯一のコメディーか)で、セイラーとルーラが盛り上がるシーンではいちいちスラッシュ・メタルというかデス・メタルみたいなのがかかって、馬鹿馬鹿しいことこのうえない。ケイジとダーンの演技もドキュソカップルのステレオタイプをさらに誇張した馬鹿演技で、この馬鹿馬鹿しさを笑えるかどうかでこの映画を楽しめるかがかかっている。

さらに、メイン・プロットが単純な分、サブプロットやサブキャラクターでこれでもかというほどリンチ・ワールドが炸裂している。母親役のダイアン・ラッドも切れ方もすごいし、プロット的には脇役キャラのウィレム・デフォーは、壮絶な存在感でメインプロットを喰っている。

ということで、リンチの遊び心がふんだんに楽しめる好作品。リンチ「らしさ」と「らしくなさ」が同居している奇妙な感覚がおもしろい。