監督:Anthony Minghella
わりに賛否両論だったし、マット・デイモンがあまり好きでないので見ていなかった映画だったが、ビデオで見る機会があった。ずばり、おもしろかった。「破滅と転落」の映画で、決して根が悪者というわけではない男が半ば偶発的に犯罪をおかし、ちょっとした欲目からどんどん深みにはまって破滅転落していくというのは、「ファーゴ」や「シンプル・プラン」を思い起こさせるけれども、それらとこの映画が違うのは、「ファーゴ」や「シンプル・プラン」は、「転落」になんらかの決着がつくのに、この映画は「転落が終わらない」というところだ。
デイモン演じるリプリーは卑屈なコンプレックスに満ちた貧しいゲイの青年で、人の挙動や筆跡を模倣するという才能があり、それゆえ犯罪はなんとかうまくいくのだが、大胆なようでいて小心でもあり、虚偽の発言をするときの彼はあからさまにしどろもどろ。計画は周到なようでいて穴だらけ。それなのに、いくどかの犯罪露見の危機も<たまたま>切り抜けてしまう。しかし、切り抜けるたびに彼は様々なものをどんどん失う。つまり、この映画では、主人公のリプリーは、表面的には犯罪者として「成功」しているのだが、それとはうらはらに本人は底なしに転落していっているのだ。
卑屈さをかくせないゲイ青年リプリーをマット・デイモンは好演。リプリーと180度反対の男を演じるジュード・ロウの腐敗した太陽のような存在感も非常にいい。イタリアの風景も美し。ジャズとオペラと聖歌を行き来する象徴的音楽も印象深い。なぜキリスト教聖歌はこんなにもゲイの愛をもり立てるのだろう? (09/16/2000)