男はつらいよ 寅次郎夢枕(第10作) (1972) ★★★★

director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次、朝間義隆
madonna: 八千草薫

あらすじ:
相変わらず虎屋のおいちゃんおばちゃん夫婦&さくらと恒例のどたばたを繰り返す寅。相変わらず「久々に再会した幼なじみ」(八千草薫)に恋心をよせる寅。相変わらず一時的な下宿人(今回は東大助教授、米倉斉加年)といざこざを起こす寅。しかし、世間知らずの下宿人の東大助教授が八千草に恋したことに対して寅は…。

リビュー:
こりゃ駄作だと思った。前半はもういつもとまったく同じ展開で、新鮮さがない。おいちゃんが新しい人であるせいか、ぎこちない部分も多々。途中、寅が(いつものように)スネて虎屋を飛びだして旅へ出るシーンでは、日本の田舎の息遣いが一見ミスマッチな西洋古典音楽とともに見事にとらえられたりして、山田洋次の映像作家としての非凡さが噴出することがあっても、すぐにマンネリ的展開にもどってがっかりさせられたり、どうにもエンジンがかかりそうでかからない。ちぐはぐ。マドンナ(八千草薫)が幼なじみというのもすでにこれまで何回もあったパターンだし。

しかし、1時間25分からの10分弱、いつもの「ふられ」のシーンでのマドンナと寅の会話にはぐっとひきこまれてしまった。いつもと若干違う展開の今回。寅にとっての衝撃の展開に山本直純の音楽が優しく流れ、寅が「そうだろ? 冗談に決まってるよ!」と言うと、オレは思わず感極まってしまいました。ここで寅を根性なしと責めるのは簡単だと思うけど、なんせ性格破綻者かつ不器用者の寅ですから、ここで逆転を打てなかったのはしょうがないんですよ。ああ、切ないねえ。

ということで、寅さんシリーズでは凡作の部類に入ると思うんだけれども、最後にうっちゃられたんで★★★★。山田洋次はたった数分間で凡作を佳作に強引に逆転させてしまえるんだから油断もなにもあったもんじゃねえ。