ゼア・ウィル・ビー・ブラッド (2007) ★★★★★

ポール・トーマス・アンダーソン(「ブギー・ナイツ」「マグノリア」)監督、ダニエル・デイ・ルイス主演。西部開拓時代のアメリカの石油王の野心と孤独と狂気を描いた映画。オスカー2冠(主演男優&撮影)

いやあ、すごい映画を観た。良く出来た時代物の人間ドラマなんだろう…程度の心づもりで観たが、そんなもんじゃない、大変ラディカルなドラマ。すごい長編(160分近い)でいて、なおかつラディカル。画は最高に素晴らしく、開放的な西部開拓の光景と裏腹に音楽は陰鬱で、俳優はすべて骨太ですばらしく、抑えた演出はひたすら不気味で、そしてジェットコースターのような、色鮮やかな、キューブリック的エンディングに愕然。70年代にこういう映画はたくさんあったと思うが、2007年にこんな映画を作ってしまうアンダーソン監督の才気に乾杯。この年オスカー作品賞を取った「ノーカントリー」より優れた作品だと思う。

へアスプレイ (2007) ★★★★

ブロードウェイ・ミュージカル化されたジョン・ウォーターズの同名映画のリメイク。すごく普通のミュージカルっぽく始まり、先行き不安になるが、冒頭でジョン・ウォーターズが露出魔の役でキャミオ出演しているのを観て、「あ、この監督いちおうウォーターズ印に敬意を払っているんだな」と一安心。ウォーターズ印としてはあまりに明るく楽しい映画ではありますが、まあ、元の映画もウォーターズとしては楽しい映画だし、健康的すぎる全体の雰囲気も、クリストファー・ウォーケンジョン・トラボルタの怪演と存在感でなんとかバランスを取っています。音楽も普通に良い。

俺たちフィギュアスケーター(原題「Blades of Glory」) (2007) ★★★

ウィル・フェレル(「サタデーナイトライブ」)とジョン・ヘダー(「ナポレオンダイナマイト」(邦題「バス男」))主演の、男x男のペア・フィギュアスケーターのコメディ。

ストーリーも演出もたいへんヌルいコメディですが、スケートシーンはなかなかに馬鹿馬鹿しく、笑ってしまいます。でももっともっと馬鹿になれたはず。

モーターサイクル・ダイアリーズ (2003) ★★★★

ロバート・レッドフォードらが制作した、革命家になる前の、医大生だった若きチェ・ゲバラが、親友とともにボロ・バイクで南米縦断旅行をするロードムービー。ウォルター・サレス監督、ガエル・ガルシア・ベルナル主演。

南米の都市の風景も、荒野の風景もひたすら美しい。ロードムービーは、風景もが素晴らしければそれだけで大方成功だ。また、映画中盤で、遺跡見学をしにきたゲバラたちが、困窮する先住民族たちと交流するシーンでは、ネオ・リアリスム的手法がとられ、映画に独自性と力を与えている。おしいのは、ラストでインディオたちの白黒映像を繋いで映画を終わらせたところ。なんだかあざとく感じてしまった。その小さな欠点以外は、役者も素人も画も素晴らしい作品。あと一人というところで完封を逃したピッチャーという感じ?

ボーン・アイデンティティー (2002) ★★★

ダグ・リーマン監督、マット・デイモン主演。

「記憶を失った、政府の暗殺マシーン」ジェイソン・ボーンが自分が誰なのかを探し求める「ボーン三部作」の一作目。マット・デイモンはこういう、せわしなくピリピリしている役がよく似合う。敵役がクライヴ・オーエンというのもいい。ただ、本作は一作目の宿命で、なんとなく自己紹介っぽい面があって、映画としてはちょっとあっさりしている気がする。

ボーン・スプレマシー (2004) ★★★★

ポール・グリーングラス監督、マット・デイモン主演。

ボーン三部作の二作目。このシリーズは、連続テレビドラマっぽい雰囲気もあって、濃くはないけれども、スピード感とサスペンスで続編・続々編を見せてくれる。出来としてはこの二作目が一番良いと思う。ちなみにこの「ボーン」シリーズは、要するに「抜け忍」ドラマなんだよね。「抜け忍」だから敵にも味方にも追われる。それで絶え間ないサスペンスが起こる訳だけど、ボーンの超人的な肉体と頭脳と運で、特にピンチになることもなくすべてをひょいひょいと乗り越えていく、と。「そんな馬鹿な…」と思う瞬間もあるが、ボーンの捨て台詞が超かっこいいのですべてが許せる、そんな映画。

ボーン・アルティメイタム (2007) ★★★★

ポール・グリーングラス監督、マット・デイモン主演。

ボーン三部作の三作目。これも評判良かったので期待したんだけど、出来は二作目ほどではないか。特に、オープニングがせわしない割に緊迫感がなくてのめりこみにくい。でもまあ勢いで最後まで観られます。ちなみに、二作目と同様、この三作目も、前作までのストーリーを絶対的な前提にしているので、必ず順番通り観ないといけません。そのあたりのスタンスも連続テレビドラマっぽいね。

クローバー・フィールド (2008) ★★★★

ブレアウィッチ・プロジェクト・ミーツ・ハリウッド・ゴジラ

賛否両論あったけど、ぼくはおもしろいと思った。後に発見された「恐怖の実録」としてのハンディカム画像という点でブレアウィッチのまったくのパクリだけど、その点をのぞけばブレアウィッチとはかなり毛色が異なる。(モンスター系)SFには常にストリートをキャーキャー逃げ惑う市民が描かれているけれども、その逃げ惑う市民の観点から出来事を観たらどういう感じかということを描いたのがこの映画で、これがなかなかに迫力満点で楽しい。ちょっと「グエムル」を観たときの、市井からみたモンスターのリアルな存在感に近くて、スリリング。登場人物が美男美女俳優ばかりで、そのあたりリアリティーないけど、これは「映画内のリアリティー」を描いた映画なので、あまり気にならない。モンスターの造形も個人的にはそこそこ好き。サスペンスが持続するし、ナイス映画。

ミスト (2007) ★★★

スティーブン・キング原作,フランク・ダラボン監督(「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」)のSFホラー。

最初の数十分の抑えた演出は良いのだが、モンスターの片鱗が見えるとこから次第にへろへろに。70年代の(古き良き)B級ホラーを見ているようで、そのチープさやキャラのベタさに爆笑の連続。ロープを引っ張ったら食いちぎられた下半身がずるずると…というシーンなど、B級ホラーの笑いのツボをよくとらえてらっしゃる。話が進むにつれプロットはますます馬鹿馬鹿しくなっていき、モンスターが出てくるシーンはまるでテーマパークのなんたらライドに載っている感覚で恐怖より笑いが先を行く。で、主人公の「やればなんとかなるんじゃないか(根拠ないけど)」という無計画さにだんだんかったるくなってきたところで「衝撃のラスト」。…衝撃というよりただのアホとしか思えなかったけど、まあ人間なんていざとなったらあの程度のアホな行動しか取れないんだろうな。まあ確信犯的なB級ホラーとしてそこそこおもしろいかな…と思ったら監督が「ショーシャンクの空に」のフランク・ダラボンだって。もしかして本気だったの? サイコロジカル・サスペンスのつもり? いやいや、まさかね。

★★かとも思ったけど、ここ20年のホラーの定石をことごとくはずす非人道的なブラックジョーク・シーンがたくさんあって笑えたというのと、最後の方に出てきたラヴクラフト的モンスターのコズミックな存在感がとても良かったので★★★。