男はつらいよ 望郷篇(5作目) (1970) ★★★★★

director: 山田洋次
screenwriter: 山田洋次宮崎晃
madonna: 長山藍子


男はつらいよ 望郷篇〈シリーズ第5作〉 [DVD]男はつらいよ」劇場版一周年にしてすでに5作目。どんなペースだ。今回は、1作目、2作目(未見)を監督した山田洋次がひさしぶり?に帰ってきました。4作目は観てないから3作目との比較になっちゃうけど、やっぱり違うねぇ。もう全然違う。ストーリー展開は毎度おなじみなんだけど、それでも違う。

なんてゆうか、山田洋次の画はきれいなんだな。ロングショットを効果的に、タメて使うので、画に深みがあるんだな。もちろんそれだけでなく、演出もすばらしく、緩急のつけかたがうまい。この映画は前半にシリアスな展開があるんだけど、そこのシリアスさは容赦なくて、いや、人生辛いねとしみじみ思わせる迫力がある。だからこそその後の、一転した軽妙なお笑いの展開が生きるんだね。

で、最後の定番の失恋シーンだけど、いつもと同じ展開なのに、今回は1作目、3作目の10倍ぐらい悲しくなっちゃったよ。真人間になろうと真剣に考えて、そのあげくに残酷な(いつもと同じパターンの)失恋。失恋にいたる展開に重さと深さがあるからこそ、目頭が熱くなってしまう。

しかしそんなことより、この映画の最大のポイントは、「シスコン」だね。1作目で「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と連発するさくら(倍賞千恵子)に寅さんもオレも萌え、逆に3作目ではさくらの出番が全然なくて激しく不満だったけど、今回は1作目よりもさらにシスコン度が高い。もちろん、「シスコン」と裏返しの「ブラコン」の度合も高いんだけど。

本作ではさくらがいつも以上に寅さんをなだめすかしたり説教したり、さくら必殺の「困った顔」の連発で、シスコンの寅さんもいつも以上にメロメロです。下の写真は、寅さんが夢の中で妄想する「床に伏す寅を心配そうにいたわるさくら」ですが、三割増しで美化されているところに寅さんのシスコンぐあいが出ている。

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話がズレましたが、結論としては山田洋次エラい、と。妹コンプレックスの性格破綻者、寅さんと、毒づきつつもこの性格破綻者を甘やかしまくる回りの人間たち。非現実的な漫画的キャラで持つシリーズなだけに、監督がヘタだと、すべてが茶番っぽくなるんだよね。3作目がまさにそうで、レギュラーの登場人物がみな大根に見えたものですが、本作は糞まじめなだけのヒロシ(前田吟)でさえも演技がうまく見える。脱帽です。