アメリカの学生は点数にうるさい

前々回に

ちなみに、もう一つ欧米、いや、アメリカの学生と日本人の学生の顕著な違いがあります。それはアメリカの学生が異常にテストの点数にうるさいということです。この話はまた後日。

と予告したことを書きたいと思います…って、そのエントリ、なんと一ヶ月前なんですね、びっくりです。時の経つのが速すぎる…。

アメリカの学生はほんと成績にうるさいです。もちろん全員ではないし、上位校の学生ほど成績にうるさく、下位になるほど頓着しなくなる傾向があります。現在教えているアメリカからの交換留学生は、大体二段階レベルの大学から来ていまして、下の方の大学(といってもすごいレベルが低いわけではありませんが)の学生はけっこうテキトーです。いっぽう、上の方の大学(といってもトップ校というわけではありません)からの学生はすごく成績にうるさい!

ぼくは院生時代に、いわゆる一つのアメリカのトップ校で学部生を教えたりしました(講義の補習セクションや、ゼミ的な授業だけですけど)が、トップ校の学生は本当に成績にうるさくて、B+付けただけで猛然と抗議されたりして、こっちとしてもAやA-以外の成績を付けるときは命がけ…というと大げさですが、常に抗議を受けたときの理論武装をする必要がありました。(ただ、天才肌の学生は成績に頓着せず、小物の方が成績にうるさいという傾向がありました。)

で、今回交換留学生を相手にしていて、成績にうるさいのはトップ校だけではないということを身にしみて感じております。

その理由の一つは、アメリカにおける「成績のインフレ」とでも呼べる現象があります。アメリカの多くの大学では、5段階評価で成績がつきます。A/B/C/Dに、Fという具合です。Aは90点以上、Bが80点以上、Cが70点以上、Dが60点以上、それ未満はFです。

日本では長らく4段階評価(優=80点以上、良=70点以上、可=60点以上、それ未満は不可)が採用されていましたが、最近5段階評価(優の上に、90点以上の秀を設けて、秀・優・良・可と不可にする)が普及しつつあります。ぼくの勤務校でも数年前に5段階評価に移行しました。とはいえ、5段階評価に移行した後も、「優は良い成績」という4段階時代の価値観が残っています。学生も(一部を除き)「何が何でも秀」という風潮は「まだ」ありません。(10年後は変わっていると思います。)

しかしアメリカでは違います。注意すべきは、80点代というのはBという成績なのです。89点でもB+です。Aではありません。「B級品」という言葉の意味を考えれば、Bというのが決して「素晴らしい成績」ではないというイメージが分かってもらえるかと思います。つまり、Aじゃないと良い成績ではない。つまり、90点以上じゃないと駄目なわけです。今回の留学生向け授業でも、83点を取った学生が暗い顔をして「悪い点数を取るのに慣れていないからショックです」と言っていました。彼にとって83点はショックを受けるほど悪い点数なのです。

で、前述した通りアメリカでは成績のインフレが進んでおり、一つの授業でかなりの数のAが出ます。ぼくがアシスタントをしていたトップ校の一般教養講義では、大学当局から「最低4割はAを出すように」というお達しが出ていたほどでした。つまり、「最低4割には90点以上を取らせる教育・試験をしろ」ということです。

ぼくはこれは必ずしも悪いことだとは思いません。学生は点数をとりこぼさないように授業を必死で聴くし、先生は9割取れるような分かりやすい授業をやらなければなりません。「分かろう」「分からせよう」という戦いなので、一定の教育効果が認められると思います。

そのようなシステムの中では、C(70点代)というのは、相当悪い成績です。少なくともトップ校では「Cは超悪い成績、Dはありえない成績」という扱いでした。ぼくもアメリカで多くの学生に成績をつけましたが(採点はアシスタントのシゴトです)、Cを付けたのは一握り。Dにいたっては、「実質不可」という扱いでした。実際、学科も「専攻に関する科目ではDは認めない」というのが普通でしたし。

こういう状況ですから、北米ではたとえば奨学金や大学院進学のGPA(Grade Point Average=Aを4点、Bを3点、Cを2点、Dを1点、Fを0点にして数値化したときの平均点)はおそろしく高いです。3.2とか3.5とか平気で要求してきます。3.2とか3.5ということは、B(80点代=3点)では足をひっぱることになります。B+でも3点換算の大学が多いですから、GPA3.2や3.5を目指すものにとっては、88点とか89点でも駄目なんです。Aじゃないと3.2や3.5を目指せないのです。

だから奴らはうるさいんですよね、成績に。日本の、へたすれば「可で感謝してくれる」学生を相手にすることに慣れてしまうと、80点でもブーブー言う学生を相手にするのはけっこう疲れます。

しかも、ここだけの話、今教えている交換留学生は、やはりアメリカで教えていたトップ学生に比べると勉強量が足りない。そういう連中を相手に90点取らせるのはほんと大変です。こっちも必死であります。

ま、それでも何人かは落とすと思いますけど。これは日本人相手の授業でも同じですが、58点ぐらいなら通しますが、56となると厳しい。このラインを割りそうな予感の学生はすでに数人います。ちなみに今回教えている交換留学生の所属大学には、「単位落としたら強制的に帰国」という厳しいルールがあるところもあるようですが、しょうがない、それも人生だ。