秋刀魚の味 (1962) ★★★★★

director: 小津安二郎
screenwriter: 野田高梧 小津安二郎

あらすじ:
企業人としてそれなりの成功を納めている平山周平(笠智衆)は妻を亡くし、娘の路子(岩下志麻)と次男の和夫(三上真一郎)と暮らしていた。典型的な昭和の家庭である平山家では、何も家事ができない男二人を、24歳になる路子が切り盛りして支えていた。そんな中、平山周平らは恩師「ひょうたん」(東野英治郎)を招いて同窓会を開いた。ひょうたんは早くに妻を亡くし、娘に甘え、結局娘がお嫁に行きそびれたことを平山周平は知る…。

リビュー:
小津映画はむか〜し一本観て良くわからなかったという記憶がある程度でちゃんとは観たことがなかったんですね。今回、初めてきっちりと観たんですが、結論から言えば、最高です! 心がぎゅっと震えるような、そんな映画でした。

最初は、小津独特のカメラワークに戸惑いました。人物が会話するとき、会話のキャッチボールに会わせていちいち登場人物のバストショットがきりかわるんだもの。普通は画面に登場人物を重ね、遠近法でダイナミズムを演出するか、あるいは日本のダッサいテレビドラマみたいにヘッドショットで会話を暑苦しく演出するかなんだけど、小津の映画はバストショットまたはそれ以上のショット、しかも真っ正面の、肖像画のようなショットが、登場人物が言葉を発するごとに切り替わる。はっきり言って、最初の10分ぐらいは「なんなんだこのカメラは!」と思いました。

しかし、映画中盤ごろにはもうこの小津の世界のとりこに。いつものごとくマリオネットのような笠智衆がもう可愛らしくてたまらんし、いや、笠智衆だけじゃない、小津の映画の登場人物はみんなマリオネットみたいな表情と動きで、自然だか不自然だかよくわからない台詞を紡ぐんですよね。観ているとおかしくておかしくて、おもしろいなあ…と思っているといつのまにかそのマリオネットのような演技の後ろに人間の繊細な心の動きが突然見えて来るんです。何よりもリアルに。

すごい。本当にすごい。告白させていただければ、何度涙をぽろぽろこぼしたか。なぜ涙がこぼれたか、オレのヘタな言葉で説明すると映画が穢れる気がするのであえて語りません。ええ。

で、すべての画が登場人物がフレームにたった一人、バストショット以上で写っている「肖像画のような画」の連続なんですが、これもしばらく観ていると、朴訥なようでいてまったく隙がない画であることに驚愕します。ほんとうに、画の構図、背景、そして小物の一つ一つにいたるまで、すべての画に綿密な計算に基づく美がある。小津って人は、本当に几帳面で芸術肌の人だったんだろうなあと思います。こんな美しい、絵画を紙芝居にしたような映画はないですよ。

個人的には黒澤大好きっ子、黒澤信者のオレですが、黒澤の画とはまったく違う、しかしある意味映像作家としては黒澤以上の芸術肌かつ天才肌だなと、もう、今まで観てなくてすみませんと謝るしかない気持ちでした。

しかし、なぜ秋刀魚…。