未来世紀ブラジル (1985) ★★★★

未来世紀ブラジル [DVD]

Brazil
director: Terry Gilliam
screenwriter: Frank Gill, Jr., Laura Kerr, Charles McKeown, Tom Stoppard

あらすじ:
個人情報が完全に管理された近未来。情報管理課に勤める役人サム・ラウリー(ジョナサン・プライス)は、金持ちの家の出で、かつ仕事ができる男だったが、単調な役所の仕事に生きがいを見いだせず、そして見いだす気もなく、砂をかむような日々を送っていた。そんなサムの唯一のオアシスが、夢の中の、ギリシャ時代のヒーローとしての自分と、ギリシャの女神のようなヒロインとのランデブーだった。そんなある日、サムは夢の中の女神にそっくりな女性、ジル(キム・グライスト)に出逢う…。

リビュー:
オレは自分ではテリー・ギリアムはかなり好きな方だと思っています。「バロン」は劇場で三回ぐらいみたし、「12モンキーズ」もけっこう好きだった。まったく意味がわからなかった「ラスベガスをやっつけろ」も嫌いではなかったし、「ロスト・イン・ラマンチャ」も観た。「タイム・バンディッツ」はどこがおもしろいのかわからなかったが…。

ということで、ギリアム最高傑作と名高い「未来世紀ブラジル」も、ずっと観るチャンスを失っていたものの、大好きになるに違いないとふんでいたわけです。

しかし、今回観て、正直、あまり好きになれなかった。モンティ・パイソン色がそこらかしこに残っているのは興味深いとは思ったけど…。

この映画は、英語風にいえば「This movie doesn't age well」なんですね。もう20年前の映画だけれども、その古さがうまく味わいとなって熟成していない。古さが古いまま感じられる。それは一つには、この映画で描きだされる「レトロ・フューチャー」な近未来像が、その後使い古されてしまったという不幸がある。正直、リアルタイムで観たら全然印象が違ったと思う。ただし、似た映像の「ブレード・ランナー」(1982)の方が3年古いにもかかわらず、今観ても映像が古く感じないことを考えると、やはり本作の映像の美学は「ブレード・ランナー」ほどは研ぎすまされていないということが言えると思います。ちょっと古さがあるのよねー。

それから、この映画があまりに直接的に風刺的であるのもマイナスに作用している。残念ながら、2000年代というおそるべき情報世界においては、多くの人は世界の多重構造を理解してないまでも気付いてはおり、本作のような極端に単純化された風刺の説得性があまり感じられなくなっているという不幸があります。なんか、観ていて醒めるというか。「個人情報」そして「テロリズム」という二つの非常にタイムリーなキーワードがテーマであるだけに、残念なところ。

あと、主人公のサム・ラウリーに今いち感情移入できなかった。なんかイラつくんだよね。だってジルが危険な目にあっているのだって、はっきりいってサムのせいだし、自分で蒔いた種が悪い結果となって咲いて、ギャーギャーわめいたって、観ている方は醒めるっつうの。

それでも、映画最後の20分のめくるめくようなシンボリズムの連続、そしてそのスピード感にはさすがに圧倒されました。それまでは★★★をつけようと思っていたのですが★★★★に昇格です。

ただね、もう一つ文句を言わせてもらえれば、長いよ。オレが観たDVDは140分だったんだけど、ダレるってこともないけど、なんか無駄なシーンが多い気がしたですよ。もう一つ、「未来世紀ブラジル」って邦題はどうよ。映画観るまえは、なかなかシンプルでいい邦題だなと思ったけど、映画観てから、おいおい、「ブラジル」って映画の世界と全然関係ないじゃん、ただ主人公の好きな曲が「ブラジル」って曲だっただけじゃん!とツッコミたい気持ちで一杯になった。曲名なのに、「未来世紀」はないだろって。