本陣殺人事件 (1975) ★★★

本陣殺人事件 [DVD]


director: 高林陽一
screenwriter: 高林陽一

あらすじ:
琴の音の中、地方の旧家のもとでしめやかにとりおこなわれていた結婚式。そして花婿花嫁は離れで夜を過ごす。その未明に響きわたる、叫び声、琴をかきむしる音。家人がかけつけると、離れは雨戸、とびらなどすべて内から鍵がかかっていた。戸を叩き割って入るとそこには花婿花嫁の惨殺死体が。外は雪が降っていたが、そこに犯人の足跡はなかった…。花嫁の父親と旧知の中であった金田一耕助(中尾彬)が頼まれて調査に乗り出す。

リビュー:
惜しい。けっこう良かったんだけど、欠点も散見されます。

「本陣殺人事件」は横溝正史のミステリ作家としての最初の本格的な作品で、金田一のデビュー作でもあります。田舎の旧家、因習、琴、耽美といった横溝のトレードマークはそろってますが、しかしこの作品は、自身ミステリ・ファンだった横溝が、ミステリの古典的テーマである「密室殺人」を日本家屋で実現できるかという問題に意識的に挑んだ作品であり、あくまで密室殺人の設定と解決が主眼なんですね。ですから、旧家、因習といった横溝色は、後の作品に比べると薄い。実際登場人物も少なく、横溝作品でいつも悩まされる「登場人物の人間関係のフォロー」が必要ない数少ない作品であります。

ということで、わりにシンプルなこの話が映画でどう料理されているか、興味をもって観ました。また、小説では非常にわかりにくかった無理矢理なトリックがどう映像化されているのかにも興味ありました。

まず、60年代ヒッピー風いでたちの「ジーパン探偵」として描かれる金田一耕助に意表をつかれます。てゆうか、このストーリーは貞操観念がからむから原作通り戦前の設定の方がよかったのでは…。まあ、オレはあまり「和服金田一」にこだわらない人間なので、ジーパン探偵の金田一も受け入れられましたが。磯川警部が、ウルトラマンタロウの隊長(東野孝彦)で、けっこう良い味出してます。

さて、高林陽一によるこの映画、横溝ブームの起爆剤となった市川の第一弾「犬神家」の前年に公開されたんですが、全体のトーンとしては他のどの横溝映画にも負けずダークで耽美的で良かったです。映像美としては市川の横溝映画よりもずっとスタイリッシュで見応えがありました。ただ、このダークさでは、耽美の中にポップさもあった市川シリーズのようにはヒットしなかっただろうなと思います。

特に良いと思ったのが音楽の使い方。音楽担当がなぜか大林宣彦なんですが、実際にはこの映画はほとんど音楽がない。キーとなる琴の音が要所で鳴る以外はほとんど無音楽。これがなんともいえない緊迫感を生み出していて、観ていてぐいぐい引きこまれました。

ただ、事件解決のくだりが、テンポがあまり良くなかったように思います。殺人の謎ときが、現実のフラッシュバックと登場人物の心象が交互にあらわれるようにして割りに長い時間をかけて描かれるんですが、このあたり、スタイリッシュさに走りすぎて、ちょっとちぐはぐな感じもしました。あと、「三ッ指」の役割や琴の役割など、もう一つ釈然としませんでした。このあたりは原作の欠点を踏襲しているということかもしれませんが(原作の細部を記憶してないもので断言できませんが)。トリックは映像で観てもやっぱりよくわかりませんでした(笑)。

全体としては、けっこう楽しめました。横溝映画のファンなら観て損はないでしょう。